閑話 サチの戸惑い(王都の日常)
王都に入るまででもあの騒ぎ。やはり王都は恐ろしい所に違いない。あたしがレイを守らなきゃ。そう思っていたんだけど、レイの入っている女子寮には2週間しかいられない。
その2週間でわかったよ。レイは大丈夫。相変わらずマイペースだね。
レイの周りには常時オヤマーのお祖父様が密偵をつけていた。リーダーはポエムというメイド。あたしは一度ポエムに呼び出された。
「あなた、ターナー式メイド術の使い手ね」
「なぜそれを!」
「分かるわ。私はね、レイシア様の母アリシア様に仕えていたのよ。だからターナー領に住んでいたの。あなたの足運び、重心のとり方、キクリメイド長とそっくりよ」
「オヤマーにもあるの? メイド術」
「ええ。もっともメイド術は残っている方が珍しいのよ。たいていの領ではあった事すら忘れられている。試してあげるわ、おいで」
ひょいとトレイが飛んできた。あたしがトレイを受け取った瞬間、シュッと風を切ってフォークが飛んできた。
カキンッ
トレイでフォークを叩き落とす。ポエムはニヤッと笑って「なかなかね」と満足げに言った。
「いくわよ」
「おう」
あたしたちは戦った。オヤマー式メイド術は攻めの技だった。攻めのオヤマーに対し守りのターナー式。防戦が悪い訳じゃない。目的は暗殺じゃなくて生かして証拠を押さえること。それがターナー式メイド術。
あたしはポエムを捕縛にかかった。もう少しだ。
しかし、ポエムに押さえつけられた。
「よいわ、あなた。あなたが一番の使い手かしら。でもオヤマーは暗殺も含めたメイド術。防戦中心のターナーじゃここまでね」
息を切らしながらポエムが吠える。紙一重だったのはお互い分かっていた。ばったりと草むらに二人とも倒れ込んだ。
「やるわね」
「あんたもな」
お互いが認め合えた瞬間だった。でもポエムさん、一番強いのはレイシアだよ。レイはターナーの料理人に伝わる暗殺術も受け継いでいるから。とは言えなかった。
その後、オヤマーの密偵たちと仲良くなり、レイの監視を任せることになった。
◇
時間が空いたあたしは、レイのバイト先で働くことになった。メイドとしてお給仕。普通の仕事だね。だけどお客様は女の子だけ。あたしはここで姉猫様とか兄猫様とか呼ばれる。なんで様付け? なんで兄? めんどくさいからそのままにしている。
店を閉めることになった。新しく大きな店にするそうだ。あたしは、前の店の二階に住むことになり、メイドの訓練を教えることになった。あたし、何してるんだろ。分からないけどレイの頼みだ。きちんと仕込んでおこう。
◇
朝5時、レイシア様とメイド修行。
その後寮の掃除をし、朝ごはんを一緒に食べる。
レイを学園まで送り、バイト先へ。
15時にバイトをあがり、レイを迎えに行く。
寮に着いたら、レイの手伝い。夕食を一緒に食べ、お風呂を借りる。
そして、元喫茶店の二階で寝る。
報告書、書くのやだな。どう書いていいかよく分かんないや。
たまに、お店以外で店長とすれ違うことがある。店長、レイに振り回されて大変そうだね。気持ちはよく分かるよ。
「レイシア様が無茶を言って申し訳ありません。何か手伝えることがあったら声をかけてくださいね」
と言ったら苦笑いされた。
いい人だね、店長。
◇
レイとお祖父様が和解した。報告書に書こうとしたらレイに止められた。
「これは、今はかかないで。書いて良くなったら言うから」
書かなくていいなら楽だな。いや、だめでしょ!
「いいから。お店が再オープンするまでの秘密」
分かったよレイ。報告書を簡単に書き直した。
そんなこんなで、レイはいろんなことをやりまくっていたが、あたしはメイドをしながら寮まで送り迎えをしてるだけ。一回、ならず者が店を襲ったが、私とレイで追っ払った。弱いよあいつら。そういえば冒険者ギルドでレイシア様がやらかしたって聞いたけど、それも報告したほうがいいかな。
レイとの王都の生活も慣れてきたころ、もう冬休みが近づいてきた。メイドのバイトもこれでおしまい。
帰ったら、上手くかけなかった報告書の代わりに、きちんと報告しましょう。うん。喋るほうが気が楽だよね。
レイとあたしは、「帰ったら温泉に入ろうね」と笑いながら話した。
………………閑話終了……………
レイシア以外の人の動きで、学園や周りの動きを書いていきました。お祖父様とかも書いても良かったのですが、ここら辺で良いよね。っていうか早く先行け? そうですよね。
次から10章、冬休みの帰省です。
ターナーの皆様、元気でしょうか。
引き続き、お楽しみくださると嬉しいです
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます