220話 閑話 サチの戸惑い 王都編序章
メイド長の指示により、レイ、いや、レイシア様と一緒に王都に住むことになったんだ。孤児院育ちの私がよ! 夢のようだよ。っていうか、不安しかなかったんだ。だって王都だよ。行くけどさ。
一度、レイを送った時王都に行ったけど、
そんな私が王都の門を潜る。それだけでも大変だった。
「おいおい、小汚い娘ども。お前らどこの田舎もんだ! 向こうへ行け!」
後ろから来た偉そうなおっさんが怒鳴りながら近づいてきた。
「失敬な」
あたしは思わず反論した。レイは子爵家の御息女。訳の分からないおっさんに絡まれるいわれはない。
「この失礼な平民を捕らえろ! そこの生意気な女、体だけは良さそうだな。儂の奴隷として可愛がってやろう。ガキは売り払え」
いやらしい顔でおっさんが言う。何様‼ あたしは戦闘態勢に入った。もちろん周りにはばれないように。
おっさんの従者が申し訳なさそうに言う。
「おとなしくいう事を聞けば危害は加えない。降伏してくれ」
ああ、分かるよ。理不尽な命令って嫌だよね。私はされたことないけど。
「お前ら、儂の命令が分かっているのか!」
おっさんはキレていた。穏便に済まそうとする従者に蹴りを入れると、従者の剣を取り上げ私にむけた。ああ、昔やった見合い相手もこんな感じだったね。むかむかしてきた。こんないやらしいおっさん、殺っていいですか? レイシア様。
「こんな女、儂一人で十分だ。儂に逆らうお前らは首だ! とっとと去れ! 女、儂の前にひざまずけ。かわいがってやろう」
従者さん、ご苦労様。あなた達が気を使ってくれたのは分かってるよ。今度は良い主人に出会ってね。
いやらしい顔をしておっさんがいきがる。殺るか。そう思った時レイが止めた。
「失礼しました。あなた様はどのようなお方なのでしょうか」
そんなのいいよ~。さっさと片付けようよ、レイ。そう言おうとした時、おっさんが言い放った。
「儂はオヤマーの人事課長を担っているクックルー法衣男爵だ。今さら謝っても遅いぞ。女は儂の奴隷。ガキ、お前は売り飛ばしてやる」
なんですと—————。オヤマーってレイがおかしくされて帰ってきたあのオヤマー! あたしは臨戦態勢に入った。
(まだ早い。きっちり攻撃されてから!)
レイはあたしを止めた。
(分かりました。攻撃されればいいんですね)
(違うから!)
(じゃあ、おっさんに手を出させましょう)
(やめて~)
「その年で課長ですか。さぞ若手に追い抜かれたことでしょうね」
おっさんはぶちぎれた。煽り耐性ないの?
「きさまぁ! 許さん!」
おっさんがブンブンと剣を振り回す。ひどい! 子供だってもうちょっとうまく振るよ。避けるのもメンドクサイ。だって当たる気しないんだもの。
でも、やられている振りをしないと反撃してはいけないんですよね、レイシア様。
ところが、おっさんは何を考えたのかレイに剣を向けた。
あ~あ、あたしを我慢していたのに。レイは無意識でおっさんのみぞおちに蹴りを放っていた。
おいおい、蹴りで意識失うなよ。おっさんが倒れると兵士たちがあたしたちを囲んだ。
「抵抗するな。お前たちは貴族に逆らい怪我を負わせた重罪人だ。命が惜しくばおとなしく
ほばくって何? っていうか、見てたんなら早く止めてよ。ああ、おっさんの仲間? レイ、殺っていい?
レイはあたしを止めて大声で言った。
「ポエム、いるんでしょ。出てきて説明を」
だれ? 急に現れたメイド服を着た女性。見たことあるようなないような。
「気づいていましたか?」
「入学当初からね」
「さすがですね」
にこやかに話すレイとメイド。彼女は囲んでいるヤツらに挨拶を始めた。
「いつもお世話になっております。私、オズワルド・オヤマーの秘書メイド、ポエムです」
こいつも関係者ぁ~! おっさんの顔をぶっては「こら起きんかい!」とドスを利かせ殴りまくっていた。おっさんを叩き起こしたメイドは騒ぐおっさんを捕まえるように兵士に指示した。
「こちらは、前オヤマー領主の孫レイシア・ターナー様でございます。その男は子爵令嬢を誘拐し奴隷商人に売り飛ばそうとした重罪人。ここにいる皆様が一部始終目撃しております。後ほど説明に伺いますが、まずはその汚らしい男を牢にぶち込んでくださいませ」
「なんだと! この小汚い娘が貴族な訳あるか! はやく放せ。儂を誰だと思っているんだ」
おっさんはわめいたが、メイドはおっさんの喉元にステーキナイフを押し付けささやいた。おいおい、あたしと同じ匂いが。
「クックルー人事課長。お久しぶりですわね。あなたはオヤマーの看板に泥を塗る真似をしました。この事は前領主夫妻並びに領主に直々に報告いたします。前領主のお気に入りであるレイシア様への暴言並びに殺傷未遂。どのような処分になるのでしょうか。覚悟しておきなさい」
◇
その後、レイとあたしは取り調べを受けた。
王都怖い!
レイ。何かあったら、あたしが守るからね。命に代えても!
あたしは、王都で過ごすレイのために、いつでも命を投げ出そうと覚悟を決めた。
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