冒険者ルルの企み

 レイシアとサチは冒険者ギルドに向かう。冒険者もCランク以上になると、どこの町を拠点にしているのか報告しないといけないから。災害や危険な魔物が出たときなど、緊急要請があったときには必ず参加する義務があるからだ。


 後期が終わった学生は4月までお休み。研究したい学生は学校に入ることはできるのだが、それはゼミに入った3年生から。レイシアとサチはやることもないので領に帰るため、冒険者ギルドに報告しなければならなかったのだ。


 久しぶりの冒険者ギルド。前の騒ぎを覚えているものは少なくなっていた。それでも、「制服の悪魔と、メイドのアサシンには手を出すな」との謎の都市伝説が伝わっていたため、レイシアとサチはいぶかしげに見られるだけですんだ。


「はい。レイシアさんとサチさんは、ターナー領に4月まで滞在ですね。では、ターナーに着きましたら、3日以内に登録してくださいね」


 レイシアとサチは「はい」と言い、その場を去ろうとした。その時、声をかける人がいた。


「あれ、レイシアじゃない。久しぶり」


 声の主はルル。一泊訓練でお世話になった冒険者だ。


「あ、ルル先生。お久しぶりです」

「先生はやめて。あれは臨時だから。今は同じ冒険者として話しましょう」

「はい」


 ルルは自分の仲間「黄昏の旅団」のメンバーを紹介した。


「うちのメンバー、他のグループを担当していたから分からないわよね。これがククリ。うちのリーダー。こっちがケント、弓も使うわ。最後がゴート、器用なのよ。基本はこの4人で動いてるの。場合によっては助っ人を頼んだり、どこかのチームと組んだりしているわ」

「「「よろしく」」」


 先輩冒険者として、礼儀正しく振る舞う3人。学園に臨時で呼ばれるのもこの姿勢が評価されているからだ。


「この子がレイシア。例のあの子」


 3人は、(この子が?)と思いながら、レイシアを見た。


「あと、そちらは?」


 ルルはサチを見たことがなかった。


「彼女はサチ。私の侍従メイドでCランク冒険者です」


「「「「この子もCランクなの!!!!」」」」


「初めまして。レイシア様の侍従メイドのサチです。レイシア様ほど強くはありませんがCランクを頂いております」


 サチはていねいにメイドの挨拶をした。


 ルルは、レイシアの戦闘を見たことがない。だから、強さよりポーター(荷物持ち)として認められ、Cランクを貰っていると思っていた。


「あなたもポーターなの?」

「ポーターとは何でしょうか?」


「荷物を運ぶ役よ。遠征のときは荷物が多くなるでしょ?」

「すみません。遠征はしたことがないので。レイシア様と2人でボアを狩っていたら、いつの間にかCランクになっていました」


「2人でボアを? 武器は何使っているの?」

「ナイフとかフォークですが」


 ルルは、最初にレイシアの武器を見たときの事を思い出した。あの時もナイフとかフォーク……。そうか、罠狩りね。そう思って納得した。


「ねえ、せっかくだから一緒にお昼食べない? 先輩冒険者として奢るよ。それに、聞いて欲しい話もあるんだ」


 ルルはいい事を思いついたと、レイシアたちをランチに誘った。どうせどこかでお昼を取ろうとしていたので、レイシアはいいですよと付いて行くことにした。



 お昼には早い時間。まだ混んでいない食堂の端のテーブルを占拠した黄昏の旅団とレイシアたち。6人テーブルなのでちょうどいい。

 いつもよりワンランク上の食堂に、黄昏メンバーはちょっと戸惑っている。


「おいルル、いくらいい格好見せようとしているのかしれんが、ここでいいのか?」

「いいのよ。黙ってて」


 ルルは全員分の今日のおすすめを頼んだ。3番目に安くてお得な料理だ。


「ここのおすすめに外れはないのよ。たまにしか来れないけどね」

「すみません。高そうなのに」

「いいのよ。この間の研修の料理のお返しだから」


 そう言えば、無償提供だったとレイシアは思い出した。まあ、みんな疲れていたからね。


 料理を食べながら、ルルは聞いた。


「ところでさ、休みの間どうするの? ひま?」

「休みは自領に帰ります」

「どこ?」

「ターナー領です」


「ターナー領? ああ、初心者の町ね。冒険者になりたての頃お世話になったわ。アマリーの向こうね」


 黄昏のメンバーがうなずいている。案外冒険者には知れ渡っているターナー領。


「じゃあさ、年が明けたら一緒に遠征に来てくれないかな。ターナーから3日ほど離れたクマデで冬にしか狩れないホワイトベアーを狩りに行くの。それが私達の最後の仕事にしようとしているのよ。荷物が多くなるからいいポーターを探しているの。戦闘とか危険な事はしなくていいから。荷物持ちとして、雇われてくれない?」


 そう言われても、遠征などしたことのないレイシア。イメージが全くつかない。


「そうね。冒険者として生きていくなら遠征は経験した方がいいと思うわ。どうせなら経験豊かな所でね。冒険者も女子はいろんな危険が多いの。なめられたり、変なことされたり。私達は学園からも信用されているパーティだし、私と言う女性もいる。私達と一度遠征経験した方がいいと思うの。なかなかないわよこんな好条件」


 ルルが必死に売り込みをかける。


「まあ、帰ってお父様と相談しないと……」


 レイシアが言葉を濁す。レイシアにとっては、冒険者は肉と山菜が取れればいいだけ。


「新しいものを作るとき、いろんな素材がいるわ。学園で高く売れる素材とか取れるようになるといいわよね」


 高く売れる? レイシアが反応した。


「新素材の使い方を研究して特許を取ってお金持ちになった学生もいたわね」

「特許ですか?」

「ええ。いまじゃ学園の先生になっているって話よ」


 レイシアが身を乗り出した。


「どう? 行かない?」


 レイシアは、行きたい気持ちを押さえてこういった。


「でも、これから帰らないといけないので」

「そうね。一度帰らないといけないわね。私達も2月に狩りに行く予定だから、冒険者ギルドに指名依頼で出しておくわ。お父さんと話し合ってよかったら受けてね。2月になったらターナー領に寄るから、その時話しましょう。駄目ならポーターはターナーで探すから。でも、受けてくれたらお互いのためになるわ。それだけは覚えておいて」


 それからは男たちも混ざり、今までの冒険談など話しながらランチを楽しんだ。

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