閑話 暗闇と卒業パーティ

 皆さん、俺の事は覚えているだろうか。忘れているだろうな。83話も前に『閑話 縦割りの弊害』で名前も付けてもらえず出て来た、脳筋嫌いの参謀部の者だ。やっと作者に二つ名だけ付けて貰えた。あんまりいい二つ名じゃないがな。権力争いに巻き込まれて、暗い資料室に左遷されてから嫌がらせで付けられた名だ。しかしこの作者、伏線回収がおかしいぐらい遅いんだよ! 誰が分かるんだ、まったく。

 いや、そんなことはどうでもいい。俺は俺の中での期待の新人、レイシアが見られるかもしれないと、無理やり卒業パーティに出られるように手配したんだ。


 …………いない。


 魔法はともかく、実技での成績は1位のはずだ。2位は王子。王子はお上品な会場に行っているだろうからいないのは分かるが、なぜ彼女がいない? 代わりなのか綺麗な女の子が座っている。あれが噂の魔法少女か。リリーと言ったな。


 在校生の紹介が終わり、リリーが囲まれる。焦ることはない。タイミングを見計るんだ。いい人の仮面を被って。


 「リリー君だね」

 「あふぅれひぃ」


 子供ながらにきれいだと思った少女は、口いっぱいに頬張った肉を口からはみ出させながら振り向いた。こいつも脳筋か! 崩れた顔に俺の笑いのツボが刺激された。待て、俺も一流のエージェント。今でこそ左遷されているが、いつでも復帰できるよう努力は怠っていない。笑いを堪えるんだ。ダメだ、顔が……ツボに……。クククッ。堪えろ暗闇!


「ああ、ゆっくり食べながらでいいよ。私は騎士団の参謀部資料室に勤めている。部内では暗闇と呼ばれているものだ」


 ダメだ、顔には出さないようにしてはいるが、腹筋が‼ 細かく動くのを止められん! まだか。 よし、そろそろ……。ダメだ! 意識したらぶり返してきた。


 呼吸を整えてから、少女に言った。肉は食い終わってるな。


「君の魔法の報告は受けているよ。ところで、レイシアという子と仲がいいのかい?」

「レイシア、ですか?」


 少女は訝し気に答えた。


「レイシア君だろ、君の魔法を見つけたの」


 少女の顔がこわばった。それが答えだ。


「ああ、先生は呼ばないで。どうこうしようっていう訳じゃないから。レイシア君を参謀部に引き抜こうかと思ってきたんだけどいないみたいでね。友達の君に話を聞きたいと思ったんだ」


 少女の顔が強張っている。何か考えているのか?


「友達? 友達なのかな……。違うと思う。何だろう。知り合い? 顔見知り?」


 ぶつぶつ何か言っている。


「どうしましたか?」

「あ、ええと、レイシアとの関係性が分からなくなって」

「関係性? 友達じゃないの? ああそうか、親友とか?」


 そうだな。友達とかそんな軽い関係じゃないか。


「違います! 親友なんて!」


 どうした? 尊敬でもしてるのか?


「じゃあ、憧れの人?」

「ないです!」


「同志」

「絶対ない!」


 どうなっているんだ? 最近の若い女の子の感性は?


「じゃあ、ライバルかな。お互いを認め合い切磋琢磨する仲間」

「…………………………。ありえないわ」


 これ以上追及するのはよそう。


「複雑な関係なのかな? 学園では身分の立場もあるしね。上手く言えないこともあるよね」


「……………………そうね」


 女の子は分からない。まあいい。話を進めよう。


「でも、君たちは2人で魔法を作り出したんだよね。レイシア君が考えて、君が使った」


「詳しいことは先生に聞いてください」


「うん。大丈夫。報告は書類で上がっているから。レイシア君に伝えてくれる? 三年生になったら僕が教師になるから待っててって」


「レイシア、今年で騎士コース辞めるよ。騎士になる気はないみたいね」


 えっ! 今なんて。


「だから、騎士になる気はないって。本人がそう宣言して、負け続けてた王子が大変だったんだから。詳しいことは先生に聞いてね。もういいかな。私お腹すいているの」


 少女はそう言うとテーブルに戻って食べ始めた。


 なぜだ! なぜ来ないレイシア! とにかく情報が、情報が足りない!

 俺は教師を問い詰めに会場を離れた。



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