閑話 魔法少女リリーと卒業パーティ

 放課後、騎士コースの先生に呼び出された。


「お前たち3人、卒業式に騎士コース1年生代表で出てもらう」


 えっ、どういうこと?


「卒業式では、騎士コースから成績優秀者3人が招待される。知っての通り1位はレイシア。2位はアルフレッド王子だ。だがな、王子は貴族のパーティに出席する。お前ら、レイシアを『アサシン』って呼んでいるんだろ。あいつに付き合える王子がいない会場にレイシアを放ったらどうなると思う?」


 私たちは嫌な予感に背筋が震えた。


「アサシン封じの王子がいない中、会場にヤツを放すわけにはいかん。そう言う事でな、お前ら三人が次点の次点で出席させることになったんだよ。代表はゾット。リリーは新しい魔法の使い手として出て欲しい。というか義務だ。よろしく頼む」

「でも私、ドレスとかありませんよ」


 パーティに出席! 出たいけど騎士爵の娘の私にはドレスなんかないよ。今から用意するの?


「制服着用だ。お貴族様のパーティとは違う。上手い料理を食べに行く感覚で出席してくれ。以上だ」


 そうして私は、卒業パーティに出席することになった。



 制服……ブカブカじゃない!


 そうだ、私魔法を手に入れた時痩せたんだった! それ以前の黒歴史は封印していたから気にしていなかった! 入学前に買った制服は、2~3回しか着ていないからすっかり忘れていたよ。どうしよう。とりあえず、両親に報告しないと。夕飯時私は家族に報告した。


「卒業パーティに1年生代表の一人として招待を受けました」


 騎士団に所属する父さんは、目を丸くして驚いていた。母さんと弟は、良く分かってないみたい。


「すごいな! 俺の娘がパーティに招待されるとは。痩せて別人みたいになって帰って来た時も驚いたが、何があったんだ?」


 私は、風魔法が使えるようになったことを話した。


「うん。なんだかよくは分からないが、とにかくよかったな。母さんお祝いに秘蔵の酒飲んでいいか?」

「あなた。お祝いはリリーにあげないと。あなたが飲んでどうするの」

「いや、ほら、なんだ」

「酒飲みは放っておいて、リリーおめでとう。記念になにか欲しいものはある?」


 母さんがそう言ってくれた。私は今だ!と、制服がブカブカなことを訴えた。


「パーティには制服で行くんだけど、サイズが合わなくなってしまったの」


 両親は「「ああぁ」」と声を漏らしながらも納得をしていた。


「今からだと頼んでも間に合わないわね」

「そうだな、それに高いんだぞ、制服って」

「そうね。予算が……」


 そして、両親はこう言ったの


「「誰かに借りてきなさい」」


 どうやって! 騎士コース女子少ないのよ。



 途方に暮れていた私を助けてくれたのがレイシアだった。

 寮母さんに頼んで、ストックされた制服と私の制服を交換してもらえることになったんだ。寮母さんは「なあに、数さえあってりゃ問題ないさ」と言ってくれた。

 私は自分のサイズの制服を手に入れることができた。あとは精一杯のおしゃれね。私は気合をいれてパーティに向かった。



「騎士コースの諸君! 苦しい訓練を乗り越えよくぞ無事卒業を迎えることができたな! 騎士になれた者、衛兵として雇われるもの、領地に帰るもの、様々な道があるだろう。しかし、道は違えど君たちなら大丈夫だ。さあ、今日は祝おう、君たちの未来に」


「「「うおぉぉぉ—————」」」


「かんぱ————い」

「「「かんぱ———い」」」


 ここはどこ? 脳筋らしく盛り上がる会場は変な熱気で盛り上がっている。ダンスとかしないの? 優雅さのかけらもない会場は漢どもの宴と化していた。

 女生徒いるよね。どこ? 私は会場の端で、ドレスなど着ず制服や騎士服で肉にかじりついている先輩たちをみつけた。


「これが、騎士コースの卒業式だよ」


 隣に並んでいる2年生の先輩が声をかけてきた。


「驚いたろう、特に女の子は。騎士コースだけはねちょっと異色な卒業式なんだ。ほら、訓練がきついからさ」


 ちょっとじゃないわよ! とはツッコめず、「はあ」とだけ返すのがやっと。そんな私たちを見て、


「ほら、もうすぐ呼ばれるよ。これが終わったら自由に飲み食いできるから。無礼講だから、騎士の偉い人に売り込むチャンスだよ」


 と言って笑った。いい先輩だなと一年生3人で話していたら、在校生の紹介が始まった。

 上級生から紹介され、最後は私たち。私はみんなが終わってから紹介されたわ。


「最後は女の子ながら、新しい魔法を見出した期待の新人リリー! 破壊力抜群な魔法だよ」


 司会の先生がそう言うと、会場中から注目を浴びた。


「新しい魔法だと」

「あんなかわいい子が?」

「噂はほんとうだったのか」


 先生はにやりとわらい、私たちに言った。


「さあ、堅苦しいのは終わりだ。お前らお預けじゃあたまらねえだろう。好きに飲み食い始めていいぞ。あそこら辺に騎士団のおえらさんもいる。売り込み行きたけりゃ行ってきてもいいぞ! お前らの実力ならよろこばれるぜ」


 そして、会場に向かって言い放った。


「さあ、ここからは無礼講だ!」

「「「うおぉ—————!」」」


 ボルテージが上がった会場は、野獣の群れのようだった。



 私は沢山の大人たちに囲まれた。


「新しい魔法ってどんなの?」

「使って見せてよ」

「かわいいね。名前教えて」


 先生が上手くさばいてくれたので何とかなった。先生も会場内で風魔法を使わせないよう必死みたい。うん。偉い人に見せろと言われて、私が断れなかったら大惨事だもんね。先生頑張って!


 やがて、大人たちは他に興味をうつし、私はやっと食事にありつけた。


「リリー君だね」


 ふいに名前を呼ばれて、私は肉を頬張りながら振り向いた。


「あふぅれひぃ」


 口に含んだ肉で上手くしゃべられない。

 クククっと偉そうな人は笑いを堪えながら私に言った。


「ああ、ゆっくり食べながらでいいよ。私は騎士団の参謀部資料室に勤めている。部内では暗闇と呼ばれているものだ」


 二つ名持ち! 私は目を見張った。


「君の魔法の報告は受けているよ。ところで、レイシアという子と仲がいいのかい?」


「レイシア、ですか?」


 男は声を潜めて私に言った。


「レイシア君だろ、君の魔法を見つけたの」


 知ってる。この人知っているんだ。私達の秘密。


(視点をかえてつづく)

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