その他の授業

 冒険者コースは、ルルの報告により、レイシアは合格の証明書が渡された。先生たちから「もう来なくていいから、というか来ないで!」と説得を受け終了することになった。


 その他のコースについてはこんな感じだ。


【ビジネス作法】


 授業は次の段階に入った。レイシアは危機一髪だったが、ていねいな挨拶を認められ、後期は最終まで授業を受けることが出来た。


「では、次のステップに移ります。商人同士の会話を理解できるようになりましょう」


 教師はそう言うと、「『商いの調子はいかがですか?』と同業者として聞いてください。その答えで儲かっているのか上手くいっていないのか判断してください。では君から」と生徒を指名した。


「商いの調子はいかがですか?」

「いや~、ぜんぜんだめですよ」


 教師は生徒に上手く言っているのかいないのか答えさせた。


「上手く言っていません」

「残念です。かなり儲かっている商人です」


 生徒を交代させ、同じことをやらせた。


「商いの調子はいかがですか?」

「いや~、ぜんぜんだめですよ」


 まったく同じような光景がながれた。生徒は「儲かっている商人の答えです」と言った。


「残念です。かなりの失敗をした商人の答えです」

「「「えぇぇぇぇ~」」」


 教室がざわついた。教師は静かにするように言ってから説明をはじめた。


「いいですか、ちょっとした目線の違い、手の動き、首のかしげ方。貴族対応のできる商人はお客様には分からないように、様々な情報をやり取りしています。みなさんには同じように見えても、この会話には様々な情報が入っているのです。さらに、難解な上級貴族の会話も読み解くことが出来なければ営業ができません。法衣貴族の君たちには分からない会話術をこれから身に着けて頂きます。かなり難解な授業になりますので、付いてこれない人は落としていきますからその覚悟で臨んでください」


 後期は、そんな『高級社会の会話術』がメインの講義だった。


 参加した法衣貴族の生徒と同様、貴族的なつながりを放棄しているレイシアにとって、それは全く未知のドロドロとした世界だった。


 レイシアは学園で初めて、まったく新しい知識を増やす素敵な授業を受けることが出来た。


 使いこなすには至らなかったが、しばらくの間、図書室で会話術の本を読みふけるのがレイシアのブームになっていた。


「そうか! この追放物のラノベの偽ヒロインのセリフ、こんな意味があったのね!」


 今はラノベの読解力が深くなったくらいにしか役に立っていなかったが……。



【魔法基礎】


 ボンボンと魔法を撃つだけの魔法の授業。カリキュラムに合わないレイシアは学園長の思惑もあり途中棄権となった。


「魔法の授業を辞めると、魔法が使えないようにしないといけないんですよね。嫌です!」


「それについては考慮するよ。他の人の魔法は騎士団で管理しないと危険すぎるものだ。町中で強烈な炎をだされたらマズイだろう。君の魔法はむしろ研究材料だ。役に立つ魔法は研究しないといけない。学園の管理下に置くので、定期的にレポートを出しなさい。しばらくは非公開になるだろうけど」


 利害が一致したレイシアと学園長とシャルドネ。魔法と言わず、特技と言うように指導された。


 こうして、使い方によっては暗殺し放題も出来てしまう可能性を持った、レイシアの威力の弱い魔法は、無害なものとして学園から認定された。



【馬術基礎】


 すっかり馬に慣れたレイシア。もう王子の手伝いはいらない。毎日の馬の手入れは休日も行うほど。馬との信頼関係も最高なレイシアは、乗馬でも上位の成績も収めた。


「思いっきり馬を走らせたら、1日で領まで帰れるかも」


 そんなことを言ったら、「街道で馬を走らせてはいけません」と教師から怒られた。



【騎士・実践基礎】


 レイシアの相手は王子しか務まらない。王子の相手もレイシアしか務まらない。

 王子はレイシアのせいで規格外にそだっていった。


 しかし、騎士の訓練は個人が強ければいいということではない。団体行動が重要になる。レイシアは団体の行動が苦手だった。ガチガチ、ムキムキのヤロー達に交じる小柄なレイシア。個人の能力はむしろ邪魔。それでも頑張って訓練していた。


 

 後期の最終授業。トーナメント決定戦。


 レイシアと王子は、殿堂入り扱いで参加させてはもらえなかった。実力差がありすぎると他の生徒のやる気がなくなるから。

 代わりにエキシビションとして、二人は戦う事になった。


「今日こそ勝たせてもらうぞ、レイシア!」


 教師から「勝つのはいいが、見せ場くらい作ってやってくれ。瞬殺はやめて」とたのまれたレイシアは、5分くらい追い込まれたように攻撃を受け流した」


「真面目にやれ、レイシア」


 王子が木刀を振る。その言葉に反応したレイシアは、木刀を避け胴を撃ち抜いた。


「勝利、レイシア」


 教師から声がかかる。熱闘に拍手が沸き起こる。王子がレイシアに手を差し出し握手を求めた。

 正々堂々と負けた王子は、爽やかに言った。


「今年は俺の完敗だ。だが待っていろ! 冬の間俺は稽古を欠かさず強くなって帰ってくる。来年は貴様に必ず勝つぞ、レイシア! また堂々と勝負をしよう」


 漢! 男気が会場内に広がる。男たちが王子の潔さと決意に歓声を上げる。皆が王子の勝利を夢見た。


「あ、来年は騎士コース取りませんけど」

「「「えっっっっっ!!!」」」


 どよめく会場。握手のまま固まる王子。


「魔法も使えるようになったし、馬にも乗れるようになったし、将来騎士団に入るつもりもないので、騎士コースは卒業します」


 あまりにも真っ当な発言をして、レイシアは戻っていった。

 王子は呆然としたまま、しばらくは動けずにいた。


 0勝16敗。


 王子はレイシアから勝ち逃げされた。雪辱を晴らす機会は二度と訪れることはなかった。



 他には、座学のテストを受けたくらい。もちろん全て余裕で合格。

 それでも教師たちは最優秀成績者を王子にしたい勢力が上回り、レイシアの成績は『奨学生参考記録扱い』になった。


 レイシアは別に気にもしない。シャルドネ先生に事情を説明されたが、


「つまり面倒くさいことは、王子にまかせてしまえるのですね」


 と言うと、シャルドネは「その通りよ」と変わり者同士意気投合した。




 後期の授業は、こんな感じで終わったのだった。

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