もうじき冬休み(第9章 完)
「それであんた達、冬休みはどうするんだい?」
夕食を食べながら、カンナは寮生2人のスケジュールを確認した。寮生に交じってサチがいるのはいつものこと。食材をレイシアが提供し、準備などをサチが担当しているので、もはやなじんでしまっている光景に何の問題もない。
学園の授業は、12月13日の金曜日で終わる。毎月28日で月が変わるので、毎月13日は金曜日。15日は盛大な卒業パーティが行われるが、レイシアにもイリアにも無関係。そして4月まで学園はお休みとなる。長い長い冬休みだ。
「バイト先でいろいろと変化があって大変になるので、5日ほど寮に残っていいですか?」
レイシアは、来週に控えた『黒猫様姉猫様、今までありがとうパーティ』でメイを新店長にする計画を立てていた。そのフォローはしっかりしないと、と思っていた。
「レイシアはじゃあ18日までだね。イリアはどうなんだい?」
「あたし? できれば帰りたくないんだけどね。今執筆中の本なんとか4月に向けて書き上げたら出版社に持ち込みたいんだけど」
「ああ、だめだね。寮は25日には閉めるよ。決まりなんだ」
「知ってる。実家か……。めんどうだな」
どうやら実家には帰りたくないらしい。
「では、私のお借りしているもと黒猫甘味堂の2階を冬の間借りれるようにお願いして見ましょうか?」
サチが助け船をだした。
「出来るの?」
「さあ。店長に相談してみましょう」
「ありがとう! じゃあ私も挨拶にいくよ。カンナさん、それ決まってからでいい?」
「そうさね。早く決めておくれよ」
「分かった。ねえいつ行けばいい?」
「学園がお休みの土曜日でいいのではないでしょうか」
「分かった。土曜日ね」
こうして、イリアは王都に残る伝手を見つけた。
「でも、あんたがいないとお風呂がねえ」
カンナはため息をついた。
「お風呂ですか?」
レイシアが聞く。
「ああ。あんたの出すお湯のお風呂。あたしゃ本当に気にいってしまってねぇ。これから冬だろ。夏は水でもいいんだけど、冬に水のお風呂にしないといけないと思うとね。冬こそ温かいお風呂に入りたいと思ってしまうんだよ」
「ほんとだ! あたしも! そうかお風呂……。寒いお風呂か……」
カンナはくどき、イリアはあせる。知らなかったらそんなものでも、一度知ってしまった快楽は簡単には手放せない。
「冬のお風呂は確かに最高ですよね」
レイシアが無邪気に言い返すと、2人は「「はぁー」」とため息をついた。
◇
サチのいない間イリアが住むのは店長からOKが出た。その間の家賃はイリアが払うことになった。後々、店長になったメイが打ち合わせと称して喫茶黒猫甘味堂へ来るようになり、尊敬する作家イリア・ノベライツ様! と部屋に押し掛けるようになるのだがそれはまた別のお話。
◇
試験も終わり、各種レポートも提出したレイシアは、お祖父様と食事をした。月に一度のお食事会。今日は、黒猫甘味堂の今後の経営戦略の話で終わった。
「レイシア。本当に貴族として学園を卒業する気はないのか?」
「はい」
「そうか……、もし気が変わったらいつでも援助するぞ。その時は儂に頼りなさい。金でも伝手でもいくらでも都合してやるからな」
お祖父様の心配は、以前ほど嫌にならなくなった。援助してもらう気持ちはさらさらない。でも、心配されていることを素直に受け取れるようになれる位は、祖父と孫としての距離が縮まったようだ。
お祖母様に対しては会う事もなく、距離は縮まることがなかったのだけれど。
◇
様々なことが起きた一年間。レイシアは自分がとんでもなく成長していることに気づいていなかった。
友達もおらず、比較する仲間もいなかったから。
孤高の努力家は、出来て当たり前の世界に慣れ過ぎていた。それゆえ、成長と言う事すら日常の当たり前に組み込まれてしまっていた。
周りにとんでもない影響を残して、レイシアとサチはターナー領に戻っていった。
………………………………あとがき………………………………
ここで、学園編の1年生は修了です。長かったのか書き足りないのか微妙ですね。絡んでくる生徒が王子しかいない! しかもボッチ同士。わきゃわきゃした青春の日常など訪れませんでしたね。
心残りはマグロ包丁。本当は下水で活躍する予定だったのです! でも女子達が早々にリタイヤしたため、あの場に魔物が出たころには地上に出てしまっていました。残念! いつか活躍するはずです。
いろいろと伏線になりそうなものを散りばめながら書いています。すーはーみたいに100話超えてから回収したりするかもしれませんので、気を長くお待ちください。すーはーは、まだまだ活躍しますよ。次はいつ出るか分かりませんが。
しばらく閑話です。その後新年を迎えるターナー領に戻ります。どうなるやら。作者にも分かりません。夏みたいに急に祭りを開かなければいいのですが……。
今後とも応援よろしくお願いします。
コメントとか♥とか★とか、反応もらえると楽しんでくれているんだな、と実感できるのでよろしくおねがいします。難しいなと思う方は、まずは♡を♥に変える所からチャレンジしてみて下さい。
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