薪を燃やそう!
暗くて匂いがきつい下水が流れる通路を歩きながら、レイシアは思った。
(暗い場所でもよく見えるような魔法があればいいのに。確か猫は暗闇でもよく見えるって聞いたことがあるわ。猫の目猫の目、キャッツアイ!)
その時、闇魔法が反応した。レイシアはまた新しい魔法を作ってしまっていた。
(なにこれ、便利! 夕方の終わり位の明るさになったよ)
レイシアはまたしても「魔法がないなら作ればいい」の精神で、おかしな魔法を開発してしまった。
◇
目的地に着く寸前、ランプを持っていた最後尾のミリが足元の小石を踏んで倒れた。
ガッシャン……ボチャン。
レイシアが転ぶ寸前で抱きとめたのだが、ミリは持っていたランプを投げてしまい、下水に落としてしまった。
「大丈夫?」
周りの女子がミリを囲む。レイシアのおかげで怪我はなかった。
「ああ、ランプ1つなくしたね。灯りがなくなると危険度も上がるから気をつけてね」
引率のルル言った。
「ごめんなさい! 足元に変な小石がたくさんあって……」
「それはクズ魔石よ。今回の仕事はそのクズ魔石の回収よ。この先だんだん多くなってくるから、みんなも足元に気をつけてね。もうすぐ目的地だから頑張って」
明かりが1つ無くなったため、隊列を変えてゆっくり進んだ。
◇
「さあ、ここが今回のキャンプ地よ。まずは火を焚いて明かりと暖を取るよ。私とレイシアは手を出さないから、みんなで頑張ってね」
女の子達は荷物を置いて薪を組み上げる。なんとかマッチで火を着けようとするが、上手く薪まで火をまわすことが出来ない。
(あ〜、そんなにマッチを無駄にして)
レイシアが手伝おうと近づくのをルルが止める。
「はい、レイシア。あっちで話そうか」
2つしかないランプの1つを生徒たちから取り上げ、ルルはレイシアを連れて歩き出した。T字の分岐で角を曲がると、レイシアに言った。
「さっきの灯り出して」
レイシアは、周りをほのかに明るくした。生徒達にバレないように。
「本当に便利ね、それ。どういう仕掛けなの?」
「物理的には出来ないし、多分私にしかできないから説明するの難しいし意味ないですよ」
よく分からないけど、出来ないことだけは確実のようなのでルルは聞くのをあきらめた。
「まあいいわ。それより今回は彼女たちの体験なんだから手を出しちゃだめよ。出来ない事を自覚しないと危険だから。どちらかというと冒険者が嫌になるようにするのが私達の役目ね」
「嫌になるようにですか」
「そうよ。現実はね、あなたや私のようにCランクになれる人などほとんどいないのよ。あなたならもっと上を目指せるかもしれないけど。たいていの人は、ここの掃除で冒険者人生を終えるの。こんな仕事でもありがたいのよ、才能のない人達にとっては」
「そうなんですか?」
「そうよ。努力しないとどうしようもないけど、努力してもどうしょうもないことだらけよ。頑張る方向を間違えると、頑張らないほうが良かった結果を生むのよ」
レイシアには受け入れ難いはなしだった。
「そんなことないと思います。私は頑張って、頑張ったからいろんなことが出来るようになりました」
自信満々に答えたが、ルルはさらに否定した。
「そう。努力家なのね。でも努力じゃどうにもならないことだらけよ。例えば、あなたのその灯り、私はどれだけ努力したら出せるようになる?」
「無理ですね」
「でしょう。無駄な努力がどんな結果を生むか見せてあげるわ。灯りを消して。戻るよ」
ルルはランプを持ってレイシアと女生徒たちの所に戻っていった。
女生徒たちは、ランプのほのかな灯りの中で、何もできずうずくまっていた。
「薪に火が着けられなかったの?」
「はい」
リーダーのマキが答えた。
「マッチは?」
「全部使いました」
「そう。残念ね」
ルルはそう言うと、レイシアに向かって話した。
「これが無駄な努力よ。この子達は火を着けるのをあきらめて私達を待てばよかったの。そうすれば少なくともマッチを使い切る事はなかった。それからあなたたち」
ルルは女生徒を見てため息を付きながら言った。
「マッチなんて使う必要ないのよ。あなたたちが手にしているランプに火が着いているでしょ。そこから火を分ければいいの。こうやって薪に付いている皮をはぎ取って繊維をほぐして……これをランプの火に付ければ簡単に着火種ができるの。レイシア、あなたは他の方法で着けてみて。自分の楽な方法でいいから」
レイシアは、「何でもいいんですか?」と聞いた。
「ええ、なんでもいいわ…マッチを使ってもね」
ルルが答えると、レイシアは手から火を出した。高温の青白い火は、一瞬で薪全体に火を起こした。
「「「……………………」」」
「なにそれ! レイシア!」
「え〜と……特技です」
(((特技って何!)))
ツッコミたくても声に出せない学生たち。取りつくろえないルル。
「…………先生、Cランクになれば私たちにも出来るようになるんですか?」
マキが聞いたが、ルルは「無理よ」と言うのが精一杯だった。
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