薪を燃やそう!

 暗くて匂いがきつい下水が流れる通路を歩きながら、レイシアは思った。


(暗い場所でもよく見えるような魔法があればいいのに。確か猫は暗闇でもよく見えるって聞いたことがあるわ。猫の目猫の目、キャッツアイ!)


 その時、闇魔法が反応した。レイシアはまた新しい魔法を作ってしまっていた。


(なにこれ、便利! 夕方の終わり位の明るさになったよ)


 レイシアはまたしても「魔法がないなら作ればいい」の精神で、おかしな魔法を開発してしまった。



 目的地に着く寸前、ランプを持っていた最後尾のミリが足元の小石を踏んで倒れた。


  ガッシャン……ボチャン。


 レイシアが転ぶ寸前で抱きとめたのだが、ミリは持っていたランプを投げてしまい、下水に落としてしまった。


「大丈夫?」


 周りの女子がミリを囲む。レイシアのおかげで怪我はなかった。


「ああ、ランプ1つなくしたね。灯りがなくなると危険度も上がるから気をつけてね」


 引率のルル言った。


「ごめんなさい! 足元に変な小石がたくさんあって……」

「それはクズ魔石よ。今回の仕事はそのクズ魔石の回収よ。この先だんだん多くなってくるから、みんなも足元に気をつけてね。もうすぐ目的地だから頑張って」


 明かりが1つ無くなったため、隊列を変えてゆっくり進んだ。



「さあ、ここが今回のキャンプ地よ。まずは火を焚いて明かりと暖を取るよ。私とレイシアは手を出さないから、みんなで頑張ってね」


 女の子達は荷物を置いて薪を組み上げる。なんとかマッチで火を着けようとするが、上手く薪まで火をまわすことが出来ない。


(あ〜、そんなにマッチを無駄にして)


 レイシアが手伝おうと近づくのをルルが止める。


「はい、レイシア。あっちで話そうか」


 2つしかないランプの1つを生徒たちから取り上げ、ルルはレイシアを連れて歩き出した。T字の分岐で角を曲がると、レイシアに言った。


「さっきの灯り出して」


 レイシアは、周りをほのかに明るくした。生徒達にバレないように。


「本当に便利ね、それ。どういう仕掛けなの?」

「物理的には出来ないし、多分私にしかできないから説明するの難しいし意味ないですよ」


 よく分からないけど、出来ないことだけは確実のようなのでルルは聞くのをあきらめた。


「まあいいわ。それより今回は彼女たちの体験なんだから手を出しちゃだめよ。出来ない事を自覚しないと危険だから。どちらかというと冒険者が嫌になるようにするのが私達の役目ね」


「嫌になるようにですか」


「そうよ。現実はね、あなたや私のようにCランクになれる人などほとんどいないのよ。あなたならもっと上を目指せるかもしれないけど。たいていの人は、ここの掃除で冒険者人生を終えるの。こんな仕事でもありがたいのよ、才能のない人達にとっては」


「そうなんですか?」


「そうよ。努力しないとどうしようもないけど、努力してもどうしょうもないことだらけよ。頑張る方向を間違えると、頑張らないほうが良かった結果を生むのよ」


 レイシアには受け入れ難いはなしだった。


「そんなことないと思います。私は頑張って、頑張ったからいろんなことが出来るようになりました」


 自信満々に答えたが、ルルはさらに否定した。


「そう。努力家なのね。でも努力じゃどうにもならないことだらけよ。例えば、あなたのその灯り、私はどれだけ努力したら出せるようになる?」


「無理ですね」


「でしょう。無駄な努力がどんな結果を生むか見せてあげるわ。灯りを消して。戻るよ」


 ルルはランプを持ってレイシアと女生徒たちの所に戻っていった。

 女生徒たちは、ランプのほのかな灯りの中で、何もできずうずくまっていた。


「薪に火が着けられなかったの?」

「はい」


 リーダーのマキが答えた。


「マッチは?」

「全部使いました」

「そう。残念ね」


 ルルはそう言うと、レイシアに向かって話した。


「これが無駄な努力よ。この子達は火を着けるのをあきらめて私達を待てばよかったの。そうすれば少なくともマッチを使い切る事はなかった。それからあなたたち」


 ルルは女生徒を見てため息を付きながら言った。


「マッチなんて使う必要ないのよ。あなたたちが手にしているランプに火が着いているでしょ。そこから火を分ければいいの。こうやって薪に付いている皮をはぎ取って繊維をほぐして……これをランプの火に付ければ簡単に着火種ができるの。レイシア、あなたは他の方法で着けてみて。自分の楽な方法でいいから」


 レイシアは、「何でもいいんですか?」と聞いた。


「ええ、なんでもいいわ…マッチを使ってもね」


 ルルが答えると、レイシアは手から火を出した。高温の青白い火は、一瞬で薪全体に火を起こした。


「「「……………………」」」


「なにそれ! レイシア!」

「え〜と……特技です」


(((特技って何!)))


 ツッコミたくても声に出せない学生たち。取りつくろえないルル。


「…………先生、Cランクになれば私たちにも出来るようになるんですか?」


 マキが聞いたが、ルルは「無理よ」と言うのが精一杯だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る