冒険者体験(準備しましょう)

「では、来週は泊りがけの冒険者の仕事体験だ。汚れてもいい服で来るように。なお、持ち物はこの紙に書いてある。各自用意するように。それから引率の関係上8チームに分かれる。4~7人程度でチームを組むように。組んだらリーダーはメンバーを報告すること。8チームを超えたらこちらで調整する。以上だ」


 教師がそう言うと、教室内では仲良しグループが形成される。あぶれている者も何とかグループに入れて貰えた。レイシア以外は。


「あ~レイシア。お前はもうCランクの冒険者なんだから、この授業受ける意味がないんだが……来週くるのか?」

「はい。まだまだ冒険者にはなりたての未熟者ですし、王都の冒険者の常識も知りませんから。一緒に行きたいです」

「しかしなあ……」


 教師がためらっていると、女子5人だけで結成されたチームが登録のために教師の下を訪れた。


「女子だけか。じゃあ引率も女性がいいよな。ルル、君が担当してやれ。それからこのグループにレイシアも混ぜなさい。引率の手伝いみたいな感じでいいから」


 女生徒たちはレイシアが混ざることに戸惑ったが、特に忌避感はなかった。変わっているけど戦力としては十分すぎる同級生に対して好意的に対応した。

 引率の冒険者ルルはCランクのやり手。みんなの武器の確認や注意事項を説明して解散となった。


「レイシア、あなたの武器暗器ばかりね。ショートソードとまではいかなくとももう少し刃渡りのあるきちんとした剣みたいなものがあった方がいいわね」


 冒険者ルルはレイシアにそうアドバイスをした。レイシアは週末に買いに行くことを約束して帰った。



「来週は冒険者の実習で泊まり込みの実習があります」


 レイシアは食事の支度をしながら、カンナとサチに報告した。


「おやまあ。あんた冒険者になるのかい?」


 カンナは目の前のレイシアの小さな体をみて驚いた。


「あんただったら、もっといい職業につけるんじゃないのかい?」


 カンナの心配はもっともな話だ。王都で冒険者など自慢できる職業じゃない。


「はい。別に冒険者をメインの職業と考えているわけではないです。ライセンスはもう持っていますし。サチも持っているんですよ。Cランク」


「「Cランク⁉」」


 カンナとイリアの声が混ざった。冒険者と言えど、Cランク以上は格が違う。


「では、私はその日はどのようにしましょうか? ついて行きましょうか?」


 サチが聞いた。スケジュールはきちんと立てないといけない。


「サチはその日は休みでいいよ。いつも私に引っ付いてお休みないでしょ。たまにはゆっくりしていて」


「日中はほぼ休みと同じですけど」

「いいから!」


 サチは仕事を求めたが、レイシアは無理やり休みにした。


 夕食を4人で食べたあと、サチは帰っていく。


「そうそう、週末武器を買いに行かなければ行けないから、午後のバイト休むね。その間サチは黒猫甘味堂をお願いね」


「武器ですか?」

「そうよ。サチはウェディングナイフがあるじゃない。私にもあってもいいよね」

「……そうですか?」


 新しい武器いらないでしょ、と思うサチだが「分かりました」と言って旧黒猫甘味堂へ帰って行った。



「授業で使う道具を買いに行くの? だったら1日休みでもいいよ。バイトも増えたしなんとかなるよ」


 土曜日のバイトに入る前に相談したら、店長から休みをもらえた。


「じゃあサチは出勤させますね」

「そうしてくれると助かるよ」


 と言うことで、レイシアは日曜日一人で買い物に行くことになった。


 1日一人でお出かけ。王都に来てから初めての体験だ。朝市に仕込みに来ることはあっても、個人的に出かけるのはなかった。レイシアは制服姿でまずは教会に行った。

 王都で一番中心的な教会は貴族街と平民街の境目にある。全ての神の父母、闇の神と光の神が祀られている。ここで拝めば全ての神に拝める事になっている。闇の神と光の神の名は秘匿されている。人間には知らされていないのだ。


 戦の神の教会は、こことは別に街の外と隣接している所にある。騎士団の場所に隣接しているから。特許を取る商売の神の教会は、隣町のオヤマーにあるため王都にはない。一神一神の教会は各地に分散されている。


 レイシアは、魔法のお礼を言いに戦の神マルス神の祀られている教会に行った。



 教会に入ると、制服で入ってきた少女を見て、神官が寄付を勧めてきた。貴族が参拝するなら当たり前の光景。


「王都の教会に来るのは初めてなのですが、どの位のご寄付が普通なのですか?」


 レイシアが聞くと、神官が答えた。


「寄付はお心のままに。とは言っても指針がなければ分かりませんよね。爵位は?」

「子爵です」

「では、大銀貨2枚からですね」


 レイシアは「2枚から」という「から」に引っかかりを覚えた。そこで大銀貨3枚を払った。


「よろしい」


 神官は正解だとでも言うように答えた。


「何事も、言われた通り行ってはいけません。神のご加護は加算された所に訪れるのです」


 そう言ってレイシアを拝殿に案内した。



 お祈りが終わった後、レイシアは神官にもう一枚大銀貨を差し出した。


「こちらを孤児院に寄付したいのですが」


 神官は驚いたように話した。


「孤児院に寄付ですか? なんと奇特な! かしこまりました。担当の者に伝えましょう。お嬢様、お名前は?」

「レイシア・ターナーです」


「レイシア・ターナー様ですね。神のご加護がありますように」


 神官はもう一度祈りをレイシアに捧げた。


「孤児院を訪問したいのですが、よろしいですか?」


 レイシアが聞くと、神官は「とんでもない!」と制した。


「孤児院など、お嬢様の見るものではありません。こちらは必ず良い使い方をさせて頂きますので、それ以上は慎んで下さい」


 神官が強い言葉で止める。レイシアは不審がりながらも、神官に逆らわないように言う事を聞いた。

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