閑話 魔法少女のとばっちり
なぜか私は魔法騎士団の就職が決まってしまった。まだ一年生。なくてもいいような地位の私としては、ありがたいと言えばそれまでなんだけど。
でも、こんなに早く人生が決まってしまわなくてもいいと思わない⁈
もっとも、私は魔法使いでいなくちゃいけない。だってこのプロポーションを維持するために、魔法を返すわけにはいかないんだから。
魔法騎士だから魔法使いでいられる。大きすぎる魔法は管理されなければいけない。だから私の進路は魔法騎士団。でもいろいろ夢だって見たいじゃない!
グルグルグルグル思考は回る。
そんな時、魔法騎士団の偉い人が私に言ったの。
「リリー、お前の風魔法は凄いが、土魔法はどうなんだ? お前風魔法の使い方が分かるんだったら土魔法の分かるんじゃないのか?」
分かるわけないじゃん! だってこれはアサシンが! ……とも言えず黙ってしまった。
「近いうちに見せてくれ。期待してるぞ。ガハハハ」
どうしよう。とりあえずアサシン、いや、レイシアに聞いてみるか。
私は次の魔法実践の授業を心待ちにした。
◇
「ねえ、レイシア。土魔法ってどうやったら使えるの? 上官たち、風がすごいなら土もすごいんだろう! 早く見せろ! とか無責任に言うのよね。分かるかー! って感じなの。あんたならなんか知っているんじゃない?」
私は先生たちの隙をついてヤツに近づいた。エリートの私は、落ちこぼれのアサシンとはいつも離れて授業を受けさせられているんだ。
「あ、リリーさん」
「久しぶりね、レイシア。風魔法は順調よ。でも土魔法が分からないの。あんたなら何か知っているんじゃない?」
「土魔法ですか。全然考えていませんでした」
「そうなの!」
「土魔法。フフフ、魔法か。新しい魔法。楽しそうですね」
何この子。怖い。
「魔法、楽しいですよね。そうか、魔法か。リリーさん! 私調べてみます! 土魔法ね。フフフフフ」
なんかスイッチ入れた? 私は土魔法の使い方を聞いただけよ。早く遠ざかろう。
「そう。じゃあよろしくね、私のために…………」
「何サボってるんだリリー」
私はお礼を言い終わる前に、騎士団から来た特別コーチに連れて行かれた。
◇
「えっ! 学園長室に来い? いつ? 放課後? 三時ですか。私が何か……。来れば分かる? はい……」
学園長の秘書らしき人から呼び出しをうけた。
ほめられるようなこと? していない。なにが悪かった?
これからランチなのに……。心配で食欲がなくなる。
大盛りはやめておこう……。
◇
学園長室に行くとヤツがいた。なぜ……アサシン!
「ああ、リリーかい。心配することはないよ。君の魔法について少し聞きたいだけなんだ。じゃあ移動するよ」
学園長は立ち上がると背後の絵画の額をずらした。
「これでよしっと」
何かを触っていたみたい。学園長が額を戻すと、ガガガガガと音がして右の本棚が動いた。
「ここの事は誰にも言ってはいけないよ。君の身に危険が降りかかるからね」
私はコクコクとうなずいた。ヤツは? レイシアは普通にしている。やっぱり分からない。何考えているのか。
私達は本棚の奥にある階段を降りていった。
◇
「ここが秘密の魔法実験場だよ。絶対話しちゃだめだからね」
学園長はうすら寒い笑顔で私に言った。
「じゃあ、やりましょうか」
アサシン、いや、レイシアが学園長に話す。なに? あんた学園長に口きいてるの⁉
「その前にリリーの魔法見てみたいわ」
見たことのない女性の先生が話した。えっ、私?
「じゃあリリーさん。風魔法をあそこら
なんでレイシアが仕切っているの!
「いいから。大丈夫だから。ね」
ニコニコとレイシアが言う。なんで?
「じゃあ、レイシアの言う通りにしてもらえるかしら」
先生がレイシアに従うように言った。
「あの辺ですね。どうなっても知りませんよ」
私は「ウインド」と叫び魔法を展開した。
ゴォォォォォ—————
強烈な竜巻が巻き起こる。竜巻の余波が先生たちにも感じられたのか身構えていた。
「大丈夫です、動かしませんから。動かすところを見たければ動かしますが」
私は先生に指示を仰いだが、もう竜巻は消えてしまった。
「……魔法は専門外だったが、いや、火と水は見たことがあったが。風魔法がこれほどとは」
「本当に。レイシアはなんてものを生み出したの」
先生たちは呆然としながらつぶやいていた。
「でもリリーさんは2属性なので、1属性だったらこの4倍の威力ですよ」
レイシアが当たり前みたいに言うと、先生たちは固まってしまった。
「では次は、土魔法です!」
レイシアだけが楽しそうに声をかける。私に何をしろと言うの!
「リリーさんなら大丈夫! 出来ます!」
なにその根拠のない自信は! あんたがやるんじゃないのよ! 私に何やらせるき⁈
「じゃあ、この間みたいに見ていて下さいね。分かりやすいように呪文があった方がいいかな? じゃあ、『メタルプレス』でいいかな?」
「メタルプレス?」
「そう。
レイシアはそう言うと小銅貨を机に置いた。
「メタルプレス!」
目の前の硬貨が薄く広がった。確かに
「先ずはこんな風に押しつぶすイメージでやってみて下さい」
私は彼女の動きをまねてみた。硬貨の上に右手を広げ、硬貨が3倍ほどの大きさになるようにイメージをして…………潰れろ!「メタルプレス!」
ヴワキィィィィィ—————
硬貨が机をぶち抜き、床全体に広がった。4本の足でさえぎられた所は、そのまま留まって。私の足に当たった所も紙のように薄く折れ曲がっていた。
指で持つと千切れるほど薄くなった硬貨。目の前にかざすと向こうが見える。
シーンとする空気の中、レイシアは一人だけ嬉しそうだった。
「じゃあ、次は向こうに向かって……」
レイシア、あんた私に何をさせようっていいの? ヤツはアサシンなんかじゃない! 悪魔よ! きっと。
レイシアに制服の悪魔という二つ名がとっくの昔に付けられているとは、リリーは知らなかった。
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