報告にいきます!

「学園長! 出来ました」

 レイシアが学園長に報告に行った。


「朝からどうしたのですかレイシア」

「土魔法が分かりました」


 学園長は飲んでいた紅茶を吹き出しそうになった。土魔法は昨日失敗したのに? 

 翌日に新たに報告することなど普通はありえない。普通? レイシアに普通はなかった。


「待て待て待て! いまシャルドネ先生を呼ぶから」


 学園長はベルを鳴らし、「シャルドネを呼ぶように。レイシアの件だと言えば分かるはずだ」と秘書にことづけた。


「そんな大ごとじゃないのに」


 レイシアがそう言ったが、学園長は「あなたの報告で大事でなかった時が何かあったでしょうか」と聞いてはくれなかった。



「今度は何をしたのですか、レイシア」


 入ってきたシャルドネは、いきなりそう言った。


「まだ何もしていません」

「ではこれからするんですね」

「大したことではないですよ」

「それは学園長と私が決めます」


 レイシアはぷぅと頬を膨らませたが、気を取り直すと小銅貨で作った猫を出して見せた。


「私の魔法は小さいですから危険性はありませんよ。これを見て下さい」


 2人は小さな猫の置物を見たが、それが何を意味するものなのか分からない。


「これは、小銅貨三枚で作った猫の置物です。土魔法は金属を変形させる魔法のようですね」


 そう言われてもう一度よく見直す2人。でもよく分からない。


「では、この手の上の銅貨を見て下さい」


 レイシアはそう言うと、手のひらに乗せた銅貨を薄く広げた。生き物のように形の変わる銅貨を凝視した先生たちは固まる。


「「なっ……」」


 様々な形に変えてみるレイシア。唖然としながら見つめる2人。最後にレイシアは元の銅貨に戻した。酸化して薄汚れていた銅貨は、新品の輝きを取り戻しキラキラと光り輝いていた。


「いかがですか?」

「そうだな……とりあえず形を変えた銅貨を元の銅貨の形に戻すのは止めようか。贋金づくりになるから」


 学園長は、ピントが外れているのか適切なのか分からない微妙なことを言った。レイシアは「そうか」と思い銅貨を丸い塊に変えた。


「……よく見つけましたね、レイシア」


 シャルドネはレイシアをほめた。しかし、あまりの事にそれ以上の言葉は続けられない。


  学園長とシャルドネはひそひそと話し出した。


「しかしこの発見をどのように発表すればいいのかしら」

「そうだな。世界を揺るがす発見だ。しかも魔法。軍部に言うべきか……。そうするとレイシアが軍部に押さえられるぞ」

「そうですね。レイシアの将来がどうなるか」


 2人は頭を抱えた。あまりにも大きすぎる問題。できれば見なかったことにしたい気持ちと、新しい発見に対する学者としての興味。学園を率いるものとしての責任と、国のために尽くさなければいけない立場とのせめぎ合い。


((なんてことをしてくれたんだ、レイシア))


 心の中で叫んだ。



「ということで、この魔法リリーさんに教えてきますね」


 レイシアが明るく言った。


「待てレイシア! 誰だリリーって」

「リリーさんは、同じ騎士コースを取っている人です。風魔法と土魔法を使えるんですよ。風魔法を教えたらとても喜んでくれました」


 喜んでと言うより大変なことになったリリーなのだが、レイシアには関係ない。


「あれか! 風魔法は騎士団が秘匿しようと躍起になっているが……。もしかして風魔法もレイシアが」

「昨日見せたじゃないですか。リリーさんもすぐ出来るようになりました。もっとも威力が違いすぎて、洗濯は出来そうにありませんでしたが」


 学園長は、昨日の異常な光景と騎士団から報告のあった風魔法が同じ原理、というかレイシアが原因で起こったものだと理解し結びついた。


「学園長。リリーを呼びましょう」


 シャルドネは、諦めたように学園長に提案した。


 結局、放課後にレイシアとリリーが学園長室に集まる事になった。

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