魔法実験中

「これが実験したい魔法のリストです」

 レイシアが先生たちに一枚の紙を手渡した。


「こんなにあるのか」

 学園長がため息をつく。


「一番安全そうなのから試しましょう」

 シャルドネが提案した。


 話し合いの結果、土ボコから試すことになった。レイシアは畑仕事の好きなヒロインをイメージした。(畑なら私も耕していたわ)ヒロインにシンパシーを感じながら大きな声で「土ぼこ!」と唱えた。


……

……

……


 なにも起こらなかった。


レイシアは次々に魔法を試した。


「サンドショット」

「ロックショット」

「ストーンレイン」


 何をやっても上手くいかなかった。


「まあ、こんなものだな」

「そうね。残念なのとほっとしたのが半々ね」

「そうだな。むしろよかったのでは?」


 先生たちは安堵あんどした。これ以上のキャパシティー越えは耐えられなかったから。


 レイシアはあきらめきれずに魔法の呪文を繰り返し唱えたが、いくらやってもなにも起こらなかった。


 この実験室に砂も石もなかったから。



 火は、酸素と水素が空気中にあったので出すことが出来た。

 水は水蒸気があるので、変換することが出来た。

 風は空気があればどこでも出せる。


 でも土は……


 古代のアーティファクトで守られた部屋には、外部の素材は影響を受けない。

 そのため、土魔法に感応する素材がなかったのだ。いくら魔法でも無から有は生み出せない。鉄から金は作れない。錬金術は不可能なのだ。


 その事に気がつかないまま実験は失敗となった。そして、ラノベの情報は当てにならないという結論に達してしまった。


 イメージが固定されると、外へ出てもダメなイメージが先行して魔法が上手く発動しない。出来るというイメージがなければ、魔法は発動しないようになっている。


 よかれと思って準備した会場が仇となり、魔法の発展の歴史が大きく動くチャンスはついえた。



 その夜、レイシアは部屋の中で土魔法について考えていた。なぜだめだったのだろう? 土魔法って何?


 土、砂、金属、宝石……


「金属?」


 レイシアは、小銅貨を手のひらに乗せた。


「金属の形が変わったら楽しいかも」


 レイシアは、硬貨がが薄く広がっていくイメージを頭の中で作ってみた。


 手のひらが温かく感じる。

 その熱に集中するように目を閉じた。


 気がつくと硬貨は薄くなり、直径が3倍ほどの大きさになっていた。


「出来た」


 手のひらのもはや硬貨とは言えない薄い銅の円盤を見て、声にならない興奮を覚えた。


「私、魔法を作ったの?」


 文字がなければ作ればいい!

 魔法がなければ作ればいいんだ!


 それは違う! と突っ込む者はここにはいない。レイシアは『魔法は作れる』と思い込んだ!


 魔法はイメージが大切。思い込みは正義?


 レイシアは、土魔法は金属を加工するもの! と思い込んだため、手のひらの銅貨の形を変えることにのみ夢中になった。


 最終的に何枚もの小銅貨を合わせ、小さな猫の置物を作った。気がつけば、もう夜は空けていた。

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