閉店後

 サチが入れた紅茶を飲みながら、3人はため息をついていた。


「つまり、このままではバイトの疲弊がつもり、近隣から苦情が止まらず、営業がままならなくなると言うことですね」


 レイシアが冷静に分析結果を言う。


「なぜ、アルバイトを増やさなかったのでしょうか?」

「指導者がいない……メイちゃんは頑張っているけど、新人に教えながら接客できるほど余裕はなかった」


 今日の状況を思い出すと、納得するしかなかった。


「でもこのままでは行き詰まるのは確定ね。私も今年いっぱいでバイトやめなきゃいけないし」

「えっ? なんで?」


 店長が動揺した。


「時給? いくらでも上げるけど!」

「学園の指導。それでも頑張って伸ばしたのよ。すぐ辞めさせたかったみたいだけど……」

「学園か……しかし……」

「学園長から直々に言われました」

「学園長に会ったの!」


 店長はもういっぱいいっぱい。一学園生が学園長と話すなんて想像もつかない。


「本当は、今日はサチの住む貸部屋を探しに行こうとしてたんですよ。明日も私はバイトに入ることになったし……」

「まあ、それはレイが学園に行ってる間にしておくよ」

「一緒に探したかったのに……」


「住む所探しているの? なら、ここに住めばいいんじゃない?」

「「えっ?」」


「屋根裏部屋、今は物置になっているんだけどあんまり物置いていないし、寝起きするだけなら充分な広さはある。下の調理場を使えばご飯は心配ないし」


「「家賃は!」」


「ここら辺だと、ひと月銀貨2〜3枚位が相場だけど……レイシアちゃんの身内だしな……」


 店長は、親切で言ってるだけなので金に執着はしていない。というか、最近儲けすぎなので、金銭感覚がおかしくなっている。


「バイト問題……住居問題……お客様の増加……」


 レイシアはブツブツ言い出した。


「レイシア……ちゃん?」

「黙って!」


 店長を止めるサチ。紅茶を入れ直し店長に差し出す。


 長いんだか短いんだか分からない時間が流れる。


「店舗変えましょう! 店長」


 突然レイシアは言い出した。


「お店狭すぎです。バイトも足りない! なのに収入が多すぎです! これでは収支バランスがおかしくなります。今必要なのは投資です!」


「はあ……?」


「今必要なのは、投資・教育・継続性です。私が去っても大丈夫な体制作り。具体的には、メイさん、ランさん、リンさんにバイトを教育できるようにスキルアップを。バイトを10人ほど増やす。店舗は今の4倍ほどの場所を」


「えっ!」


「使えるものは何でも使います。お店は一ヶ月は休みにして環境整備を始めましょう。サチにも全面協力してもらうよ」


 レイシアの暴走妄想が止まらなくなった。


「レイシアちゃん! いくらなんでも無理じゃない?」


「多分大丈夫だと思うよ。店舗移動はだめだとしても、バイトの増強とレベルアップは最低でもやらないと。あの3人にお休みも必要だし。1ヶ月お店休んで、体制の立て直しはやらないといけないわ」


「休みか……」


「企画書は明日まで出します。店長は休みの決定を出して下さい」

「まあ、最近働き詰めだったからそのくらいは」


「これでサチの住居問題も解決ね。じゃあ店長、続きは明日ね」


 言いたいだけ言って、レイシアはサチを連れて帰って行った。


 店長の苦難はここから加速するのだった。

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