190話 開店します!
サチを連れたレイシアは、大勢のお客様に向かって宣言した。
「ただいまより、黒猫甘味堂開店いたします。その前に、今回の特別ゲストのご紹介です。私のお姉様枠、姉猫です!」
「うわぁ—————」と盛り上がるお嬢様たち。レイシアはサチを前に出す。
「何を言えと」
「とりあえず、よろしくくらい言って! お姉さん風に」
「お姉さん風?」
「孤児院でみんなのお姉様だったでしょ!」
サチは一歩前に出た。集まる視線に囲まれる。
「あー、今日はよろしく。いつもこいつかわいがってくれてありがとな。黒猫のアニキだ」
(言い間違った! アニキじゃない! 姉貴でしょ! その前に下町言葉! メイド風のお姉様期待していたのに。そうね、孤児院と言ったわよ。でもね、あ~!)
レイシアは言葉の選択を間違えたことを後悔した。
サチは、言い間違えたことに気づいていない。
お嬢様達は大喜び! 美しい大人のメイドがお兄様キャラ! 新たな世界が!!!
サチは、お兄様キャラの麗人メイドとして一日過ごす事となった。
◇
姉猫様は、兄猫様として大人気! レイシアに低い声を出すように命ぜられてしぶしぶ従った。
「お嬢様、こちらにどうぞ」
「きゃー!」
「なにか御用でしょうか」
「あ、あの……紅茶のおかわりを」
「かしこまりました。では、私が注がせていただきます」
「ふあー……」
「あの……握手してもらえませんか?」
「握手ですか? いいですよ」
「あっ、ありがとうございます! ああっ! 一生洗いませんから!」
「いや洗おうよ」
「「「キャー! わたしにも!!!」」」
サチの人気は留まることを知らない。かわいらしいメイドにお嬢様扱いされることに喜びを見出していた彼女らに、新しい燃料が放り込まれたのだ。
大人の香りが漂う、すてきなお姉様。あるいは疑似恋愛として的のお兄様。憧れの対象。様々な感情で満ちあふれる店内。
(もしかしたら、サチはメイド服ではなく執事の格好をさせた方がいいかもしれないわ)
レイシアはこの状況を見ながら、よからぬことを考えていた。
◇
「「「行ってらっしゃいませお嬢様。お帰りお待ちしております」」」
最後のお客様たちが帰った。これから片付けがあるが、レイシアはバイトの2人に帰っていいと言った。
「ランさん、リンさん、お疲れ様。上がっていいわよ。今まで大変だったでしょう。片づけは私とサチでやるから」
そう声をかけると、2人はお礼を言った。
「「レイシア様! 帰って来てくれてありがとうございました!」」
「私たちだけでは、どうしようもありませんでした!」
「メイさんが倒れて、どうしようかと……」
安心したのか泣き出す2人。レイシアは頭をなでながら、
「よく頑張りましたね。明日も私にまかせて」
と約束した。
「「ありがとうございます」」
「それから、これおみやげ。よかったら、メイさんにも持って行って」
「「はい! ありがとうございます」」
レイシアは、2人にサクランボジャムが練り込まれたクッキーを渡した。
2人は大事そうに鞄にいれた。
「それから、サチさん。ありがとうございました」
「サチさんいなかったら、乗り切れませんでした」
「「明日からもよろしくお願いします!!」」
「えっ、明日? 今日だけだよあたし」
「「えっ!」」
「えっ?」
「それも含めて、これからお話しましょうか、店長。いまのままではダメなの分かっていますよね」
レイシアが店長を見つめる。店長の背に寒気が走った。
「じゃあ、お疲れ様ランさん、リンさん。明日もよろしくね」
「「はい。お疲れさまでした」」
2人がドアから出ていくのを見守った後、レイシアは店長に言った。
「さあ、これからの事についてお話しましょうか」
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