お知らせ
翌朝早く、ファンクラブのお客様が並び始める前にレイシアとサチ、そして店長は店に入っていた。レイシアは店長に分厚い計画書を提出してざっと説明を始めた。
「とにかく、一か月の休業とバイトの増強! これだけは今すぐ許可してください!」
レイシアの圧に負けた店長は、「はい」としかいえなかった。
その時、ポエムがどこからか現れて、「本日、約束通り旦那様が参ります」とレイシアに言って去っていった」
「今の人は? どこから入ってきたの? どこに行ったの?」
店長がレイシアに聞いたが、レイシアは「知り合いです。後で教えます」とお茶を濁した。
そうこうしているうちに、外にはお客様が集まり始める。やがて、「モフ様~!」「「「モフ猫様~!」」」と言う声がした。元文学少女、現アルバイトの少女メイが店の中に入ってきた。
「レイシア様~! お帰りなさいませっ!」
飛びつくように抱きつこうとするのを止めるサチ。嫉妬とかではなく危険そうだったから。
「なんですか、あなたは!」
サチの腕の中で暴れるメイ。
「私は、レイシア様の護衛兼侍従メイドのサチです。お見知りおきを」
「私はレイシア様の一番弟子のメイ」
「一番弟子? あら、それにしては言葉遣いがおかしいわね。落ちこぼれなのでしょうか?」
「キ――――」
一発触発な緊張感が走る。レイシアがすかさず止める。
「メイさん、落ち着いて。サチも。これから一緒に頑張らないといけないんだからね」
「レイシア様! 私、今日からまた頑張りますから!」
メイが嬉しそうにいうと、また外が騒がしくなった。
「「「白猫様~」」」
「「「茶トラ様~」」」
ランとリンが入ってきた。
これで、スタッフ全員そろった。レイシアは店長に目線を送った。
「え~、皆さんにこれから重大な発表があります」
普段と違う雰囲気に、アルバイトの3人が身を固める。
「黒猫甘味堂のこれからについて大きな変化があるのですが、ここからは、企画立案したレイシアちゃんに説明してもらいます」
丸投げした! しかしそれが最適解⁈ レイシアは皆を見回し発言した。
「明日から、黒猫甘味堂は変わります! 私を信じて!」
「「「はいっ!」」」
「じゃあ、明日からはしばらくの間お店を閉めて次の体制のための準備をします。悪いようには致しません。私を信じて!」
「「「はいっ!」」」
「では、今日が通常営業の最後になります。心を込めてお嬢様をお迎えください」
「「「はい!」」」
「円陣!」
「「「はい!」」」
「みんなやるよ!」
「「「おお!」」」
「私たちは」
「「「メイド~」」」
「いつでも~」
「「「お嬢様のために~」」」
「心からの~」
「「「笑顔で~!」
「真心を~」
「「「つくす~!」」」
「「「ふぁいっ! ふぁいっ! ふぁい!ふぁい!ふぁいっ!」」」
「黒猫甘味堂~~~」
「「「オープン!」」」
サチ以外のメイド全員でやった。サチだけはノリについていけなかった。
店長も、昨日は訳が分からずやってしまったが、よく考えたら混ざるのがおかしいと気がつき、サチと外から見ていた。
「今日はやらないんですか?」
サチが店長に聞いた。
「ノリって怖いね」
「そうですね」
なんというか、いたたまれない空気が、サチと店長の間に流れた。
「では、ランさんとリンさんは整理券を配ってください。メイさんは昨日からの流れと改めてサチの紹介を致します。ランさんリンさん、よろしくお願いします」
「「はい」」
そうして、メイに事情説明を始めた。
◇
開店の挨拶をするため、レイシアが外へ出た。
「「「黒猫様~」」」とお嬢様達が叫ぶ! さすが1番人気。レイシアは口に人差し指を立て、静かにさせた。
普段と違う行動に静まり返るお嬢様たち。レイシアがゆっくりと話し始めた。
「まもなく開店いたします。その前に、皆様にお知らせがございます。静かにお聞きください」
真剣に耳を傾けるお嬢様たち。レイシアは一呼吸おいてから話し始めた。
「皆様のおかげで、黒猫甘味堂はいつもお客様を待たせるほどの人気店になりました。つきましては、サービス向上のためお店をリニューアルしたいと思っております」
(((ふんふん)))
「そのため、1ヵ月程のお休みを頂きたいと思います」
「「「えええ—————」」」
「お静かに。
「「「おおおおぉぉ—————」」」
地が割れんばかりの歓声があがった。黒猫甘味堂のメイドは、いまやアイドル。なりたい者は多いのだが、どうしたらなれるのか知らなかった。レイシアが帰っている夏の間面接希望のお嬢様がたくさん来ていたのだが、店に余裕がなく全員断っていたのだ。そのチャンスがついに回ってきたのだ。
「お静かに! 面接希望の方は、明日と明後日、履歴書を持って店長に提出してください。土曜日に面接をします。今日来た方は失格にします。必ず明日か明後日に来るようにお願いします。では、リニューアル前の最後の営業です。黒猫甘味堂開店いたします!」
メイド達の「お帰りなさいませ」の声が響き渡る。
今日も黒猫甘味堂はお嬢様だけでいっぱい。
やがて、お祖父様が現れるまでは……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます