百合? 妄想イリア
食事を終え後片付けをしようとレイシアが立ち上がった。
「ここはあたしがやるから、レイシアはお風呂の準備して。いや、お風呂にお湯を入れてください! お願いします!」
イリアは平身低頭お願いした。お願い? おねだり?
レイシアはそれを聞いて、お風呂にお湯を入れに行った。それを見て皿を洗おうと台所に行くと、サチが全て洗い終えていた。
「こちらは終わりました。他に何を致しましょう?」
「いや、もういいよ。ねえカンナさん」
「ああ。あんたたち疲れているだろうから、今日は早くお風呂に入って休みな」
「そうですか? ありがとうございます」
「お風呂入れますよ~」
レイシアが声をかけた。
「ではイリア様。お風呂へどうぞ」
サチがイリアに声をかけた。イリアは「あたしが先でいいの?」と戸惑ったが、カンナに「誰からでもいいさ」と言われ、最初に入ることになった。
◇
「ああ~、やっぱりお湯だと違うわ」
イリアはお湯につかると、思わず声が出た。これよこれ、このお風呂に入りたかったのよ!
「お湯加減いかがですか? もっと温めましょうか?」
「いいえ、最高よレイシア! あんたすごいわ」
「そうですか? ありがとうございます」
イリアが十分にお風呂を堪能した後、レイシアはお湯を温めなおしカンナに入るように言った。
「あたしより、あんたたち先に入りなよ」
カンナはそう言ったが、レイシア達の勧めにより先に入ることになった。
カンナも熱いお湯での入浴に大層満足した様子だった。
「では入りましょうかレイシア様」
「ここは一人でいいわ、サチ。湯船もそこまで大きくないし」
「では私は服のままレイシア様を洗いましょうか?」
「もう、レイでいいよサチ。主従関係終わり」
「そう? じゃあレイ、一緒に入ろうか」
「もう。一人で入るったら」
イリアはそんなやり取りを聞きながら、作家としての
(これが一部ラノベ界で流行っているという『百合」という世界? あの
結局二人で入ったのだが、イリアは二人のやり取り、「もうサチ、そこはいいから」とか「レイの胸もふくらんできたね」などの漏れ聞こえる言葉を耳を立てて聞きながら、ひとり顔を赤らめていたのだった。
◇
「サチ、あんたはそこの部屋を使いな。ベッドに布団は敷いておいたからさ」
カンナが風呂上がりのサチに告げた。2人がお風呂に入っている間に客間を用意しておいたのだ。
「ありがとうございます。使わせていただきます」
サチはていねいに頭を下げた。もっとも護衛を兼ねているのでレイシアの部屋にいるつもりだったが。
イリアはここぞとばかりに、取材をしようとレイシアをさそった。
「レイシア、久しぶりだからあたしの部屋で話さない? サチさんも一緒に」
「いいんですか?」
「もちろん!」
「サチ、一緒に行くよ」
三人は歯を磨いて寝間着に着替えたあと、イリアの部屋に集まることにした。
◇
「ようこそレイシアにサチさん。私の部屋へ。レイシアも入るの初めてだよね」
ランプの燈火がうっすらと机まわりを照らす薄暗い部屋。窓を開けているので、月明りで部屋全体は見える程度の明るさ。電機などない世界。暗い廊下から見れば十分明るいと言えるのだが……。
「せっかくだから明るくしましょう」
レイシアは、木製の窓を閉め切り、さらに暗くなった部屋の中で「ライト」と唱えた。
「なにこれ!」
小さな光の珠が浮かび上がると、部屋を明るく照らす。部屋の中は夕方程の明るさとなった。
「何をしたのレイシア」
「えっ? 魔法で明るくしただけですよ」
「しただけって! えっ、魔法?」
「そうです。便利ですよね」
イリアはラノベ作家。ラノベの中での便利な魔法には空想の中では親しんでいる。が、リアルにされるとそれはそれ! 異常な状態にすぐには慣れない。
「ライト…………。たしかに『オレって強すぎイイイイイイイイイイイイーシリーズ』にはその手の魔法が出てくるけど……。あれってリアルにあるの⁉」
驚きで放心状態になったイリアにレイシアはサラっと答えた。
「多分、私しか使えない魔法ですね。便利だからみんな使えばいいのにと思うのですが」
イリアの予想外な一夜は、ここから始まった。
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