パジャマパーティー

 程よく明るくなった部屋。気を取り直してイリアがベッドに座るように促した。


「改めましてサチさん。あたしはイリア。よろしく」

「よろしくお願いします、イリア様。私のことはサチとお呼び下さい」

「様はいいよ〜。イリアって呼んで」


 よそよそしい挨拶に、レイシアが割って入った。


「サチ、メイド仕様終了。素で対応して」


「素で、ですか? 分かりました。じゃあ挨拶しなおすか。あたしはサチ。18歳。レイシアが5歳の時からの友達さ。よろしくイリア」


「それが素? いいね。よろしくサチ。あたしは15歳だから3つ上か。レイシアが13だから……サチは10歳からメイドだったの?」


「違うよ。メイドになったのは2年前。それまでは他で働いていたんだ」

「2年で強くなったわね」

「……ホントニネ」


 サチは、メイド長の訓練の日々を思い出し白目になった。


「なんでお嬢様のレイシアと、平民のサチが幼馴染なの?」


 普通ではありえない設定にイリアの作家としての好奇心がうごめきまくっていた。


「う~ん。どこまで言える?レイ」

「そうね」


「秘密なの?」


 それはそれで妄想が膨らむイリア。んっ、レイって呼んだ? メイドの時はレイシア様だったのに!


「秘密じゃないんだけど。えーとね、5歳から私教会で勉強をしていたの」

「5歳から勉強⁉」

「ターナー領では普通なんだけどね」

「それでこんな子できるのね!」


「それは違うよイリア」

 思わずツッコむサチ。


「それからは、教会の隣の孤児院でお手伝いを始めたんだけど、その時いろいろ教えてくれたり相談に乗ってくれたりしたのがサチなの。本当に感謝しているわ」


 サチは『素敵なお姉様計画』を思い出し、やんなきゃよかったと後悔し始めた。

 イリアは絶賛妄想中! シスター見習いの衣装を着たサチが小さなお嬢様のレイシアに、手取り足取り教えておる! 百合! これが百合の醍醐味⁈ ゼイゼイ


「大丈夫ですか? イリアさん」

「だ、大丈夫よレイシア」


 やばい! 顔に出ていた? イリアはドキドキを抑えようと必死になった。

 その隙にサチがイリアに聞いた。


「イリア、レイは学園でちゃんとやってる? やり過ぎていない?」

「やり過ぎていると思う」

「やっぱり」


「大したことはしていませんよ」

「「嘘だ!」」


 気が合う2人。


「そういえば、王子様とはどうなったのよ」

「? なにもありませんが」

「なにそれ! 詳しく!」


 イリアは本棚から一冊の本を出した。


「『制服王子と制服女子~淡い初恋の一幕~』? ああ、レイが持ってきたから読んだよ。イリアが書いたんだって? すごいね」


「そこのモデルが王子とレイシアなの。まあ大半は作り事だけど、王子の演説はそのままよ。王子がレイシアに向かって『ああ、あそこに制服の女子がいますね』って指差して言ったもんだからもう会場中騒然だったのよ。あわてて窓から逃がしたわ」


「え? 私がモデルなの? 王子こんなにカッコよくないわ」


「まだ気づいてなかったの? モデル料としてお昼おごっていたのに」

「あれってそういうこと?」


「レイ、あんた……」

「だって、あの時は制服着て並んでいただけだから。その前に王子とは会っていないし。今だって騎士コースの実践でいつもペア組まされているだけだし」

「そこ詳しく!」


「え~と……。いつもペア組む時先生から指名されるのよね。だからいつもボコボ……じゃなく、手を抜きながら圧勝しているんだけど」


「なにそれ! 恋愛要素は?」

「ないですよ。ケガさせないようにするのが大変なんです」

「まあ、レイなら手を抜かないとまずいわね」

「でしょう!」


 だめだめ、妄想妄想! イリアは何とかネタにならないか考えた。いつも戦う王子と騎士見習いの女生徒。イケる!


「そういうイリアさんは付き合っている人とかいないんですか?」


 自分に振られるとは思ってもいないイリア。でも大丈夫! いないから。


「いないよ。平民目指しているから相手にもされないし。早く小説家として一人前にならないといけないからね。色恋は小説の中だけで充分よ」


 残念少女イリア。サチに振る。


「サチは? 18ならいろいろあるんでしょ?」

「私も聞きたいわ。誰かいい人いるの?」


 イリアとレイシアに見つめられたサチ。


「いないよ。以前お見合いならしたことあるけど」

「そこ詳しく!」


「え~と、あれは去年の春だったな。隣町の旅館の息子とお見合いをしたんだけどさ、あれは酷かった」

「どんなのさ」

「食事のマナーはなってないし、常識もない。おまけに女が本を読むのが気に入らないとか言いやがって」


「「なんですって!」」


「だから、女が本を読むのが気にいらない……」

「だめだそいつ!」

「サチ、別れなさい」


「だから、断った……ていうか断られたよ」

「サチを断った⁉ 何様! 私のサチを!」


 私のサチ? 百合! イリアの百合への対応速度は速くなっている。


「だ~か~ら~、相手が断るようにメイド長が動いたのよ」


 メイド長? 新たな登場人物が! イリアの妄想が止まらない!


「メイド長が、これからはレイシア様のために精進するように言ったわ。だからレイ、男なんてどうでもいいの。あたしはあんたのために働くよ。あの(メイド長にしごかれた)日々はレイに捧げたあたしの青春よ」


 (男なんかどうでもいい? レイに捧げた青春? ドキドキが止まらない! これが百合と言うものなの⁈)


 イリアの妄想が暴走!


 


 残念少女たちの楽しい夜は、明け方まで続いた。

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