早く帰ろう女子寮に
「よろしければ、今日は私と一緒にオヤマーの旦那様の所へ行きませんか? 大分遅くなりましたし、これからサチ様の宿を取るのは大変でしょう?」
ポエムがレイシアをオヤマーに誘った。
「いいえ、まずは寮まで行きます。今日帰ると連絡をしているので顔だけでも出さないと心配させてしまうので」
「そうですか。では、寮までお付き合いいたします」
3人は歩き出した。ランプを片手に先導するポエムはメイド服、レイシアとサチは平民が着るようなブラウスにロングスカート。しかも旅の途中で薄汚れている。更に、先程の戦闘にもならなかった
ドナドナドナドナドナ~
お貴族様のモノに手を出しては大変。あの殺気は関わりたくない。
人々はそう思ったのか、道を譲るため左右に分れた。
それはまるで、聖書に描かれた神々の行進。森の木々が左右に動き道が出来ていくような……。
にぎやかだった大通りは、異様な静寂に包まれた後、何もなかったかのように元の景色を取り戻した。
◇
「ただいま〜」
ドアを開けて挨拶をすると、食堂からイリアが駆け込みレイシアに抱きついた。
「きゃっ! イリアさん?」
「レイシア! あんたがいないとあたしダメ」
「どうしたんですか?」
「あんた……便利すぎ」
後ろからカンナが出てきた。
「お帰りレイシア、遅かったね。ほらイリア離れる! おや、そちらの方は? メイドさん?」
イリアを引き離しポエムとサチに向かうカンナ。
「
「あた、……いや、私はレイシア様の侍女メイドのサチ。これから王都でレイシア様のサポートをするため一緒に来ました」
「安全確保? 何があったんだい? まあ入りな。事情聞こうか」
ポエムとサチは「失礼します」と言いながら、中へ入った。
◇
「そこ! そこんとこもっと詳しく!」
「黙ってなイリア!」
ポエムが説明を始めた。最初は黙って聞いていたのだが、途中からイリアの作家魂に火が着きどんどん突っ込んで聞くようになってしまったので、報告なのか吟遊詩人の物語なのか分からない位、長い話になっていた。
「ああ〜、そりゃあ大変だったねぇ」
「大変なのはこの国の未来だよ! カンナさん」
イリアがどうでもいいツッコミを入れた。
「そんな訳で、2~3日は逆恨みした関係者から嫌がらせがあるかもしれません。証拠の資料もこちらにありますし。ですので、いつもより身辺警護を強めに行いたいと思っております。学園にはこちらから連絡いたしますので、こちらのサチさんをしばらくの間住まわせて下さい」
「へっ! あたし?」
いきなり振られたサチは驚きを隠せなかった。
「あなたの実力は先程確認できました。では寮母様、本日サチが泊まる許可を頂いてもよろしいでしょうか」
「そういうことなら2~3日はいいけどね。それ以上は学園の許可がいるよ」
「明日にでもお持ちいたしますわ。もし駄目な時は、しばらくこちらで面倒見ますので外泊許可を願いますが」
「だめよ! レイシア行かないで〜」
イリアが心の底から叫んだ。
「まあ、早めに取ってきておくれ。うちのイリアがおかしくなる」
2人は「ははは」とわらうと頷きあった。
「では、レイシア様。たまにはオズワルド様にもお顔を見せて上げて下さい。お食事だけでもけっこうですので」
レイシアは、黙って頷いた。
「あんたはどうするんだい?」
「私はこれから、王都の離れに行きます。この証拠を明日旦那様に渡さないといけませんので」
「そうかい」
ポエムは礼を言って去っていった。
「ほら、ご飯にするよ。すっかり冷めたから温め直すか。ほら、そっちの子、呼び方はサチでいいのかい? あんたの分くらいなんとかなるから席に着きな」
カンナがスープ鍋を持とうとしたのをレイシアが止めた。
「温め直すなら、これで十分です」
レイシアは、ファイヤーの魔法であっという間に温め直した。
「ほんとにあんたは便利だねー」
半ばあきれたようにカンナが言った。
いつも台所は任せっぱなしだったイリアは、あまりの異常さに黙ったまま固まってしまった。
その後、騒ぎ出して質問しまくったのは言うまでもない。
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