お祭り(開会式2日目)

 2日目の朝。スタッフミーティングが孤児院で開かれた。


「昨日の来客数、約4500人。そのうち他領からのお客様が1000人程。コンクールでの屋台販売、各店舗200食完売。今日も200じゃ足りないですよね。ジャム800個完売。本日分500個しかありません。それを300にして屋台での料理を増やした方がいいでしょうか?」


「冒険者ギルドだが、2日分用意していた肉昨日で売り切った。今日の分仕込みに行かせたが、もしかしたら店だせねえかもしれねえ」


「農業ギルドも同じ。いま、収穫させているから最初は何とかなるが、昼以降は分からん」


 昨日の売り上げが予想以上だったため、在庫が心もとなくなっている各セクション。


「祭り、1日でよかったんじゃないか?」

「そうですが、今それを言っても始まりません。お父様」


 レイシアと神父が顔を突き合わせてプログラムを調整し始める。午前中にステージイベントを集中させる。

 神父がイニシアティブをとることに決まった。


「では、本日のイベントの順番を変える。屋台の販売は12時以降から。午前中は店を開かないように。午後から始める予定の孤児による朗読劇を開会宣言の前に行う。ここで、水の女神アクア様の祈りと「スーハー」で10時45分まで引き延ばそう。開会宣言の後は、すぐに『お料理コンテストプロ部門』だ。それが終わるまで、ステージにお客を引き付けておくんだ。昼から3時間、販売を保てば成功だ。午後のイベントは楽団の演奏とダンスでステージ周りはもたせるんだ。いいか、午前中が勝負だ! それまで販売できる商品を集めまくれ」


 神父の言葉に動き出すスタッフ。特に商業ギルドは他領の商人に伝達しなければならないためてんやわんやだ。そんな中、レイシアは「一番足りないのはお肉ね」とサチを伴って狩りに行こうとした。


「お前がいなくなってどうする!」


 領主であり父のクリフトが叫ぶと、レイシアは「大丈夫」と言った。


「孤児と貴族の子供に関してはクリシュがきちんと動かせます。お料理コンテストはお父様が仕切ってください。今は食材が足りないのが一番の問題。さくっと用意してきますよ」


 そう言うと、颯爽と駆け出して行った。



「じゃあみんな、順番が変わっただけだから何も心配しなくていいよ。僕と一緒にステージに行くだけだよ。大丈夫。いつも通りでやろう」


 クリシュは孤児と貴族の子供たち、要はクリシュが勉強を教えている生徒に向かって声をかけた。


「頑張らなくていいから。いつも通りやろう」

「「「はい!」」」


 クリシュの言葉に感銘を受ける子供たち。てっきり頑張れって言われると思っていたから。


「今まで頑張ってきたんだ。大丈夫。自分を信じて。この2週間よく頑張りました。さあ、練習の成果を見せよう!」


 子供たちの心が一つになった。そこには孤児とか貴族とか、そんなことはどうでもいい、仲間としての一体感があった。


「さあ、ステージの始まりだ」


 子供たちは、「「「おう!」」」と気合を入れ、ステージに向かった。



   水の流れの様に

   上流から下流へ

   水も、恵みも、富も、知識も

   大地を潤すように、人々に、平等に

   分け与えたまえ

 

   大地を潤す水は、だれのものでもなく

   誰もが与えられるべき惠であれ

   生きとし生けるもの 命をはぐく

   慈愛に満ちた神の恵みよ

   その全てに感謝を捧げる


 孤児たちが聖書を持ちながら聖詠を歌うように神に捧げる。貴族の子供たちが、聖書の一場面を芝居として再現する。そして、全員で聖歌を歌った。


 そのオープニングセレモニーを見た、他領の者たちは衝撃を受けた。

 子供が、孤児が聖書を、文字を読んでいる? お芝居をしている? 昨日の聖歌も孤児が歌っていたのか? 貴族の子供と孤児が仲良く同じステージに立っている? ありえない! そんな思いを駆け巡らせながら、素晴らしい舞台から目が離せなかった。


 聖歌が歌い終わった瞬間、青空から温かな霧雨が一瞬舞い落ちた。人々を濡らす程でもないやわらかな霧雨は、晴れ渡った大空に大きな虹をかけた。


「奇跡だ」


 誰かがボソッとつぶやいた。その言葉に触発され、あちらこちらから「奇跡」というつぶやきが広まっていった。


 そして、感動が会場中に広まったその時、


 軽快なオルガンの音が響き渡り、「スーハー」が始まった!


 虹がかかった青空の下で、腕を広げては閉じ息を吐く人々。孤児も貴族も平民も、男も女も年寄りも、そんなことは関係なく、同じ動きで空気を吸う。そして吐く。

 人々に真の平等と一体感が生まれた。そして、人々は、神の慈愛を感じながらスーハーを繰り返していた。いつまでも、いつまでも。

 高らかに響くオルガンの音は、やがて優しい音色に変わる。最後の呼吸が終わったとき、どこからともなく拍手が沸き起こった。


「「「ブラボー」」」

「「「パチパチパチ」」」


 大歓声の中、『水の女神アクアに捧げる農耕祭。サクランボフェスティバル』、最終日の開式宣言が行われた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る