お祭り(閑話 ラッシュの災難)

「おまえらなぁ。なんで今日の食材、食いつくしてるんだ」


 冒険者ギルドでは朝からギルド長が、集まってきた冒険者たちに向かって暴言を言い放っていた。


「だって、昨日の祭りで働いてたんですよ。打ち上げするくらい当たり前じゃないですか」

「「「そーだそーだ」」」


 二日酔いなのか、酒臭い息を吐きながら冒険者たちが言う。それを聞いたギルド長は怒号を上げた。


「お前らが肉を食いつくしたせいで、今日の焼き肉の材料がないんだ! さっさと外に出て肉を狩ってこい! 今すぐにだ!」


「無理ですって、こんな二日酔いの野郎共で狩りなんぞ行ったらどうなることやら」

「そーだそーだ、殺す気か!」

「ブーブー」


 口々に文句を垂れる冒険者たち。うん。俺もそう思う。


「貴様らあ! ならば昨日の肉と酒代払ってもらおうか。屋台の値段で計算してやろうか? 金貨5枚くらいにしようか。……」

「「「ひでぇ」」」


「ひでぇのは、お前らだ! いいか、俺は今から打ち合わせに行く。帰ってくるまで残ってたやつは金取るからな。うさぎでもなんでもいい、1人一匹は狩ってくるんだ。速攻でな」


 そう言ってギルド長は会議に向かった。

 仕方がない。リーダーっぽい立場になってしまった俺は考えた。


「そう言われてもな〜、こいつら狩りに出したらあぶねーよな」


 ため息をつきながらも、妥協案を探す。


「お〜い、お前ら。無理はしなくていいぞ。とにかく木の実でも山菜でも食えるもん取ってきな。うさぎでも捕れたら御の字だ。あと、元気良さそうなそこの3人! パーティ組んてるよな。俺とボア狩りに行くぞ。一頭狩ったらなんとかなるだろ。ギルド長の顔だけ立てとかないと。顔洗ったら行くぞ!」


 なんとかやれることをイメージさせて、冒険者たちを森に向かわせた。



 森を散策すると、ボアの糞が見つかった。まだ柔らかい。ここら辺にいるはず。


 気配を消すように指示し、周りにいた他のパーティに追い出しを頼んだ。


 ボアが走って来た! 2頭の子連れだ。マズい! 戦闘態勢に入ったボアが俺たちを見つめる。寄りにもよって子連れとはついてねぇ。普段より攻撃的になるじゃないか。撤退も考えないとな……というか、逃げられるかな……、やべぇや。


「いいか! 命大事にだ。防御をしながら逃げるぞ。相手が引いたら追いかけるな! 子どもには手をかけるなよ。安全第一!」


 俺は、母親のボアにちょっかいをかけながら、3人が逃げるチャンスを作っていた。3人も、攻撃を仕掛けながらも逃げるタイミングを伺っていた。



「2人は逃しました。ラッシュさん、そろそろ逃げる方向で!」


 見ると逃げたかと思った一人が駆けつけてくれた。


「何やってんだ! 早く逃げろ!」

「一人ではチャンスも少ないでしょう。一緒に頑張りましょう」

「すまない」


 パーティのリーダー・ハルが俺のために残ってくれた。ありがたい。一人では荷が重かった。二人で距離を保ちながら、逃げるチャンスを伺う。


 その時、


 パーティリーダーのハルに、背後から、仔ボアが体当たりをしてきた。不意をつかれたハルは、ふっ飛ばされ仔ボアに囲まれた。


「マズい!」


 俺たちは連携を崩された。目の前には母ボアが、呼吸を荒らげ俺を見つめる。逃げられる気がしねぇ。もうだめかな……。その時




「「ブワシュ――――――」」


 派手な音がした。ハルを見ると……



 仔ボアが2頭、首から派手に血を吹き出していた。


 その脇に、メイド服を着た少女と、貴族のドレスを着た少女が、小刀を持って構えていた。……ん? 小刀?……いや、包丁と派手なナイフ? あいつら、この間の新人!


 母ボアは、目標を戦意喪失した俺ではなく、少女たちに変えた。マズい!


「お前ら、今すぐ逃げろ!」


 若い女が死ぬのは駄目だ。俺が身代わりに……。

 そんな気持ちも伝わらないのか、少女は言った。


「サチ、大猟よ! 3頭いれば十分よね」

「レイ、サッサと狩るよ。狙うは頸動脈。血抜きが楽だからね」

「わかってるわ! いくよ」


 何言ってんだ、こいつら。勝つつもりなのか? あんな小刀で……。


「いいから逃げろ!」

「「うるさいな〜、黙って!!」」


 その声が引き金になり、突進をしたボア。危ない! ボアが体当たりをする瞬間、左右に飛び逃げる少女たち。


 走り去るボアの首がおかしい? グラッと揺れると、大空に血が吹き出した。


「さっ、回収回収っと。その前にサチ、ナイフを貸して」


 ボアほっといて大丈夫なのか⁉ 余裕しゃくしゃくで何をするのかと見ていたら、手から水を出しナイフの血糊を洗い流していた。何だそれ!


「はい、これで大丈夫」


 その時、「ドスンッ」と地響きがなり、ボアが遠くで倒れた。


 「さっ、回収しましょう」


 少女は、仔ボアに近づくと、手に持ったバックに仔ボアを入れた。


 ?????。何が起こった? 消えた?


「ああ、バックにしまっただけですよ。ほら、こうして出せます」


 ボアが出てきた。またしまわれた。何だそれ!


「そういうものです。気にしないで下さい」


 気になるわ! さっきの水も!

 少女は、母ボアまで走って行くとそれもバックに入れた。残ったメイドが俺に言った。


「まあ、レイシア様のやることにいちいち気にしていたら疲れますよ」


 それでいいんかい! おかしいだろ! と思ったが、声には出せなかった。


 少女は戻って来ると、こう言った。


「では、私達はこのボアを持って行きますので、そちらの怪我人はお願いします。すぐに迎えを頼みますが、血の匂いで他の魔物が来るかもしれません。その時は、このボアの頭を投げて分け与えれば大丈夫だと思いますよ」


 そう言って、母ボアと仔ボアの頭をドンと置いていった。


 あっという間にいなくなった少女たち。


 疲れた……。


 ハルの容態を見たが、気を失っているが大怪我まではしていない。よかった。


 と、思ったら灰色狼に取り囲まれた。


 俺は少女が置いていったボアの頭を3つともリーダーらしき狼に投げた。

 受け取ったリーダーと2匹の狼は、頭を咥えるとゆっくりと立ち去った。狼たちはリーダーと共に去って行った。


 あいつらのおかげで助かったが……、やつら本当に新人なのか?


 世の中には触れては行けないものもあるのではないか。そんな恐怖が俺におそった。

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