160話 お祭り(初日)
開会宣言の後は、みんなそれぞれに屋台で買い物を始めた。
温泉以外の町中全てが祭り会場だ。
普段は5000人の人口の町に、1000人以上の他領の者が立ち寄りに来ていた。
ステージでは楽団が軽快な音楽を奏で始める。
音楽を聴く者。ダンスを踊り始める者。
みんなそれぞれ、思い思いに祭りを楽しんでいた。
本来、サクランボの旬は7月。8月に生のサクランボはない。それでも加工したジャムやサクランボ型に焼いたクッキーやパンなど、屋台では普段見ないような食べ物であふれていた。
冒険者ギルドも、冒険者がかき集めた肉で串焼きを売ったり、牙や毛皮の細工を露店で売ったりしていた。冒険者たちには、警備の仕事も回していた。
他領の者には、農業ギルドの行う産直市が好評だった。普段出回らない、また流通のせいで高くなる新鮮な果物や野菜が卸値で手に入る。農民は補充するのにてんやわんやのうれしい悲鳴!
若い女の子は、他領から来た商人の田舎では中々出回らない貴金属に夢中。男どもは好きな女の子の気を引こうと無理して購入していた。
町中のお店も食堂も大賑わい。どこからか集まってきた大道芸人が、町のあちこちで芸をしてはおひねりを貰っている。
1時。今日のメインイベント、お料理コンテストの一般の部が始まった。
予選を勝ち上がった10名が、広場に置かれたテーブルの前に立つ。
「それでは、料理開始!」
一斉に作り始める。材料を切る者。粉を練る者。インタビュアーが調理方法を聞きながら、会場の見学者に伝える。
そう、これはレシピを共有して、ジャムの売り上げを伸ばすための戦略でもあったのだ。
簡易なかまどが用意され、煮炊きや焼く作業が始まった。おいしそうな香りが会場中に広まる。ゴクリと喉を鳴らす者。「食べたい!」という子供の声。
やがて、スープや煮物、お菓子など、多種多彩な料理が10種出来上がった。審査するのは、領主、料理長、レイシア、商業ギルド長、それに有名料理店の料理長達3名。一口ずつ味わい、点数をつけた。
観客たちは、結果を待ち望んだ。司会が大声で観客に言った。
「これで、審査員の得点は決まりました。あとは、みなさんの投票です!」
何事! と会場がざわつく。
「ここに、今回のコンテストの料理の屋台を作りました。値段は材料費と手間を料理店の経営陣たちが話し合い決めました。皆さんの購入数によって、得点が変わります。一般審査開始です。ご自由にお買い上げ下さい」
大きな幕が引かれると、そこには10台の屋台があった。今、目の前で作られていたおいしそうな料理が並んでいる。人々は一斉に屋台に駆け寄った。
「スープだ!スープを飲ませろ!」
「クッキー食べたい! 買ってよ~、お母さん!」
「肉! ジャムで煮た肉の味は?」
それぞれの屋台の料理が飛ぶように売れた。
この10店舗で使われたジャムの総数180個。かなりのジャムが材料として消費された。そして売り上げも上がった。
1位のボア肉のサクランボ煮込みは賞金として金貨2枚が与えられた。
2位は金貨1枚と大銀貨5枚
3位は金貨1枚
4位以下には参加賞として大銀貨2枚ずつ。
レシピ代として払っただけだが、全員が賞金を貰えたことに参加者も他領の者達も驚いていた。
そして、同じ料理を作ろうと、サクランボジャムが飛ぶように売れて行った。在庫が足りず、一人1個の制限が付いた。それでも完売してしまった。
参加者も、企画運営者たちも、お客様も、大満足なサクランボフェスティバル。初日が終わった。明日は2日目。期待に胸を躍らせながら他領のお客はアマリーの宿へ向かった。
他領の者がアマリーへ帰った後に、領民達が温泉で2次会を始めていたのは、ターナー領だけの秘密。
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