お祭り (開会式)
夏空! 爽やかな風がそよぐ朝。祭りの準備で広場はにぎやかになっている。屋台の仕込みをする者。最後の飾り付けをする者。運営スタッフは、孤児院で最後の打ち合わせをしていた。
「じゃあみんな、思いっきり楽しもうね!」
レイシアの締めの言葉に「「「おう—————」」」と歓声があがった。
◇
9時
水の女神アクアに祈りを捧げるため、ステージに孤児たちが並んだ。オルガンの伴奏が流れ孤児たちが聖歌を歌い出す。美しい旋律に、お祭りに来た人々はうっとりと聞き入りまた祈りを始める。
割れんばかりの拍手の嵐。子供たちが去り、神官見習いのマックスがステージ中央にたった。人々は、開式の宣言が行われるのかと、固唾をのんで見守った。
マックスはおもむろに両手を広げ、声高らかに言った。
「聖なる儀式! 神の呼吸『スーハー』」
チャン♪チャラチャラララ♪ チャン♪チャラチャラララ♪ チャチャチャ チャララン♪ チャラ チャン チャン♫
軽快に響き渡るオルガンの音。やる気の領民と唖然とする他領の人々。
「さあ、初めての方もご一緒に! 腕を開いてスー。腕を閉じながらハー。はい! ス―― ハ―― ス―― ハ――」
見よう見まねでスーハーを始める他領民。オルガンが軽快にリードする。
何度か繰り返した後、いつもの掛け声をかけた。
「腕を大きく開いて~」
「ス――――」
「腕を閉じて~」
「ハ――――」
「はいっ みんな揃ってスーハースーハー。腕を開いてスー。腕を閉じたらハー。ご一緒に朝の儀式を行いましょう」
オルガンに合わせて腕を回す。体をひねる。もちろんスーハー忘れない。ノリノリの領民につられて体を動かす他領民。やっているうちに楽しくなり始めた他領の参加者は、終わるころにはすっかりスーハーのとりこになった。
朝から軽い体操と、深呼吸をする清々しさ。まさに神からの祝福を受けたかのような感動を感じていた他領民。これは自らの領でも流行らせなければ! 何人もの人がそう思った。
……後に神官見習いマックスは、『スーハーの伝道師』としてあちらこちらの教会に呼ばれ、出向くようになるのだった。
次に領主、クリフト・ターナーが舞台に上がった。
「我が領は災害に苦しんでいた。しかし皆のおかげで復興にめどが立った。領主として、領民の皆に感謝を捧げる。そして、我々の守り神アクア様に祈りと感謝を! これからは幸せに向かって歩き始めよう。この祭りはそのための第一歩だ。……ただ今より、『水の女神アクアに捧げる農耕祭。サクランボフェスティバル』を開催する。皆、心の底から楽しんでくれ」
場内から割れんばかりの拍手と歓声が沸き上がった。領民は心の底から感動していた。他領の者達は、こんなに領民思いの領主がいるという事に驚きを隠しえなかった。
伝説となる『水の女神アクアに捧げる農耕祭。サクランボフェスティバル』の開会式がこうして行われた。
さあ、楽しいお祭りがこれから始まる!
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