第六章 夏休み
レイシアからの手紙
レイシアから手紙が来た。
『ごきげんよう、お父様。それから大好きなクリシュ。元気にしていますか?
私は元気に過ごしています。
学園では最初のテストで一番になりました。授業免除で好きな勉強をしていいと言われました。お姉様は凄いんですよ。
それから魔法も使えるようになりました。なんと全属性です。水汲みが楽になりました。
武術も強いですよ。王子が少しは出来るけど、私の足元にもおよびません。
それから、寮の仕事もほめられています。そうそう、同じ寮に学生作家のイリア・ノベライツ様がいるんですよ! サイン本も貰いました。とても親切で、よくお昼ご飯をおごってくれます。とても優しい人です。
喫茶店でバイトも始めたんですよ。おいしいパンのある喫茶店です。クリシュにも食べさせてあげたいです。
夏休みの半ばにはいちど帰ります。詳しい日程はまた連絡します。
会える日を楽しみにしています。
レイシア・ターナー 』
◇
父クリフトは頭を抱えた。
弟クリシュは目を輝かせていた。神父バリューは固まった。
「なんだ……これは」
「お姉様からのお手紙ですね」
「それは分かっておる。なぜ? なぜレイシアは王子と戦っているんだ? なぜ王子に勝っているんだ?」
「お姉様ですから」
「授業免除? テストで一番?」
「お姉様ですから」
そんな会話にもなっていない会話を続ける親子。
魔法全属性に研究心を燃え上がらせる神父。
「それで、お姉様はいつ帰ってくるのですか?」
「さて、夏休みは7月14日からだが、何か用事でもあるのかもしれないし、次の手紙を待たないと何とも言えんな」
「楽しみですね」
◇
ところが、7月14日になっても次の手紙は来なかった。
「お姉様から連絡来ませんね」
クリシュはそわそわしながら父にたずねた。
「お迎え行かなくて大丈夫なのですか?」
「まあ、もう少し待とう。学園でなにか課題が出たのかもしれないし」
「でも」
「一週間くらいは待とう。それで手紙が来なければこちらから出向こう」
「一週間も?」
「遠くにいるっていうのはそう言うものだ。なあに、明日にでも迎えを頼む手紙が来るだろうよ」
「……分かりました」
クリシュは姉の事を心配しながらも、なかばに帰るという言葉を信じようと心の中で決めた。
22日になった。まだ手紙が来ない。
「お父様、僕が迎えに行っていいですか?」
「お前がか? 駄目だ。明日にでもメイド長にいかせる」
「僕も行きます! 行かせてください」
そんな押し問答をしていたその日の夕方、レイシアは一人歩いて帰ってきた。
「ただいま~」
「レイシア!」「お姉様!!」「「「お嬢様~!!!」」」
ターナー家は混乱の渦に巻き込まれた。
「「「どうやって帰ってきたの(だ)!!!」」」
口々に叫ぶ。
「乗合馬車でアマリーまで来てあとは歩いてきたよ。荷物が少ないから歩きでも早く着くね」
レイシアの斜め上発言に、黙る者、怒る者もいたが、大半の使用人は
「あ~、お嬢様らしいな」
と思っていた。
◇
実際、馬車の移動は遅い。人は乗るし荷物は重い。馬を休ませ休ませ移動しなければならないので、荷物がなければ歩いた方が早い。
乗合馬車なら、町ごとに馬車を乗り換えれば、馬の疲れなど考えなくても移動が出来る。専用の馬車で二泊三日かかる行程も、一泊するだけですむ。
そう合理的に考えたレイシアは、乗合馬車を乗り継いで来られる所まで来ると、あとは歩いて街道を渡ってきたのだ。
説明を終えたレイシアは改めて言った。
「ただいま。お父様、クリシュ。夏の間よろしくね」
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