140話 解体。そして夕食

 久しぶりに帰ってきた娘。だが父クリフトはレイシアに向かって叫んだ。


「このバカ娘! どれだけみんなが心配したと思っているんだ。なぜ手紙を寄こさなかったんだ!」


 レイシアはなぜ怒られているのか分からなかった。


「手紙ですか? 出しましたよ、10日前に」

「10日前? それだ!」

「?」


「手紙はな、王都からだと早ければ4日で着くが、まとまってから送ることが多いから、遅いと2週間以上かかるときもあるんだ。まだ送られてないんだろう。予定の手紙は速達で出すように。それでも4日はかかる」


「そうなんですか!」


 レイシアは、普段近況報告程度の手紙のやり取りしかしていなかったため、そんなシステムになっていると気づいていなかった。


「まあ、無事に帰れてよかった。お帰りレイシア」


 そう言うと、父はレイシアを一度抱きしめた。

 

「あまり無茶をするな。帰るときは迎えを出すから。さすがに昼から盗賊は出ないが、野生動物は出ることもあるからな。それに荷物も……」


 そう言ってレイシアを見たら、鞄一つしか持っていないことに気づいた。

 着替えは? とか言おうと思ったより早くレイシアが動いた。


「あっ! 魔獣が出ました。ボアだったので狩っておいたよ。上手く頸動脈ごと切れたので大雑把な血抜きはすぐ出来たから」


 そう言うと、首の半分取れかかったボアをカバンから出した。


(((どこから出した!!!)))


 あまりの異常事態に固まるしかない周囲の人々。

 ニコニコしているレイシア。


「ま、なんだ。嬢ちゃん。……内臓出そうか」


 狩りの師匠のコック長がなんとか言葉をかけると、レイシアは嬉しそうに「はい」と答えた。


「じゃあ、ここからは血みどろの解体になるから慣れてない奴は屋敷に戻ろうか」


 機転を利かせたコック長はみんなが室内に戻れるように声をかけた。

 そしてサムも交え、3人でさっさと内臓処理だけ行った。



「本日のメインディッシュは、レイシア様が狩ったボアより取り出した『血の滴るレバーの炙り』です。これは、本当に新鮮な取り立てでなければ出せない逸品です」


 料理長がそう言うと、父と弟は首を切られたボアの姿を思い出した。


「さあ、食べましょう」


 3人でお祈りをすますと、レバーを口に入れた。


「「おいしい」」


 内臓料理は狩人にだけ許された料理。内臓は運び込むまでに痛むのと寄生虫が多いので大半は狩場で処分される。こうして食卓に上がることなどないのだ。


「そうでしょう。いつも持って帰れないので、いつかクリシュに食べさせたかったのよ」


「お姉様、今度狩りに連れて行ってください! 僕もお姉様みたいに強くなりたいです」

「まあ。じゃあ後で料理長と相談しましょう」

「本当ですか! 楽しみだな~。そういえば、王子様を倒したんですか?」

「ええ。顔に水をかけて、ひるんだすきに後ろ足をけり上げて、倒れた所を押さえつけて、喉元にステーキナイフを当てたら気絶したわ」

「わあ、すごいですね」


 姉弟は無邪気に会話をしながら食事を楽しんだ。

 父はむせかえった。「すごいですじゃないだろ! 王子になにしているんだ!」そう言おうとしたが言葉にならなかった。


「大丈夫ですかお父様」


 父は、(お前が言うな)と思ったが「平気だ」と答え、姉弟の時間を邪魔しない様にした。会話が進むたび、盛り上がる姉弟と青ざめる父。


 とうとう父はレイシアに言った。


「いろいろ聞きたいことがあるが、これから大丈夫か? 疲れているなら明日でもよいが」


「え~、お父様。これからお姉様と一緒にいたいのに」

「クリシュ。それなら明日レイシアと遊べなくなるがそれでいいか?」

「……分かりました」

「レイシアは?」

「明日のために今日頑張ります!」

「じゃあ着替えたら私の部屋にくるように」


 こうして、3人は祈りの言葉を捧げ夕食を終えた。


「あっ、お父様、ちょっとだけ待ってもらえますか?」

「なんだ?」

「クリシュのために、お風呂をお湯にしてきます。10分位で終わるから。クリシュ、お風呂温泉みたいにしてくるね」


 そう言って、風呂場に駆け出した。


 その後、クリシュはお風呂場で大声をあげ、使用人たちがあわてて駆けつけることになった。

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