100話 バイトしてみたら?

 テストで明け暮れた一週目。結果は来週発表になる。

 貴族クラスA(仮)で過ごしたレイシアは、ずっとボッチだった。それ以外何の被害はない。敵対するほどの小物は、相手にもされないだけ。だからレイシア自身も気が楽に学園へ通っていた。


 ボッチさいこ~! って叫びたいくらい!


 いまさら、貴族の付き合いなど出来ないレイシアだった。



 そんなレイシアをはたから見る王子の目には、レイシアはひとりぼっちで可哀そうな少女にしか見えない。貧乏ゆえに制服で来るしかなかった入学式に、俺があんなことを言って目立たせたから、きっとあの後ひどい目にあったに違いない。そう思っていた。


 とっとと控室に戻った王子は、その後の逃亡追跡騒動は知らない。勝手な妄想で罪悪感を抱いている。


 しかし、自分がかばうと余計ひどいことになるという姉の親切な忠告が気になり、積極的に近寄ることが出来ず、いじめられないか遠くから見守るだけしかできない。

 いっそいじめられていたらそれを止め介入することもできたのだが、教室はいたって平和。むしろ急に課せられたテストに皆の心が集中したため、いじめなど起こしている余裕はなかった。


 そのため、王子は同じ教室にいるのにレイシアと接点を持つことが出来なかった。


◇◇◇


 寮に帰れば、仕事もあるし尊敬する先輩もいる。レイシアはそれだけで充分だった。

 木曜日の夕飯時、レイシアはカンナに言われた。


「土日はあたしゃ休みだからさ、レイシアこれがここの鍵だ。預けておくから無くするんじゃないよ」


 カンナさんは、レイシアに寮の合鍵を渡した。


「それから、あんたの料理の腕は知っているけどね、土日はこの厨房は使わないでおくれ。決まりなんだよ。土日は学生の社交の日と学園が決めていてね。どこかのお茶会やパーティーに出る様にという事らしいんだ」


「ま、あたしらには関係ないんだけどね」


 イリアがパンを頬張ほうばりながら言った。


「土日くらい、パンとか米玉とか買って食べれば何とかなるさ。屋台ですませばやすいしね」


「そうだね。イリアはそんな感じだね。レイシア、あんたはバイトでも探したらどうだい」

「バイトですか」


「ああ。まかない付きのバイトなら昼飯は何とかなるだろう? それに、自分の飯分くらい自分で稼げるようにならないと平民にはなれないさ。頑張って探してみな」

「平民に。そうですね。私に何が出来るでしょうか?」


「「いや、あんた。何でもできると思うよ」」


 カンナとイリアは、声を揃えて突っ込んだ。


「とりあえず、食堂にでも行ったらどうだい。 賄いつくし、あんたの腕なら重宝されるだろうよ。給仕でもいいだろうし」


 カンナがそう言うと、レイシアは


「分かりました。休みの日にバイト探しに行きます」


と、元気に答えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る