バイトを探そう
今日から休日。カンナの言いつけ通り、レイシアは制服で出かけた。なんだかんだ言っても、制服でいるのが一番防犯上安全だから。それと、制服が一番上等な服だから。
レイシアは、まずは朝市で仕事がないか探した。
「あんた、制服の悪魔だろ。ダメダメ、ここのシマじゃ、あんたを雇おうなんて勇気のあるものはいないさ。あきらめて他で探しなよ」
レイシアは、初日の買い付けのおかげで、朝市の中では「制服を着た悪魔のお嬢様」というありがたくない二つ名をもらっていたのだ。学校でのボッチはウエルカムなレイシアも、下町でのボッチはグサリとくるものがあった。
仕方がないので、街の食堂に飛び込み営業をかけた。
「わたしを働かせてください」
でも、食堂の店主も奥さんも困り顔。
「あんた、その制服、いいとこのお嬢さんだろ。仕事なんてできるのかい? ここは人手が足りてるんだ。他行ってくれ」
「あんたみたいなお嬢さんは、ここの客じゃ嫌な目にあう。ここの客は品がない冒険者なんだ。悪いことはいわねえ、他当たりな」
「あんたねえ、ここ庶民の店だよ。貴族は貴族街で働きなよ」
どこへ行っても断られるばかり。貴族街のお店に行っても、新入生というだけで仕事が出来ないお嬢様扱い。どこもやとってはくれない。朝から食事もせずに断られ続けたレイシアは、肉体的にも精神的にも疲れていた。いや、肉体はそうでもない。精神的に疲れていた。
「働かせてもらえれば役に立てるのに……」そうつぶやいたが、誰の耳にも届かない。こんなにできない子扱いされたことがなかったレイシアは、すっかりやる気を失ってしまっていた。公園のベンチに座り込んだ。
「もう、今日はいいよね。寮に帰ろう」
そんなことを思っていたら、猫がベンチの隣に座ってきた。
猫はレイシアを見ると「ミャー」と鳴いた。
「猫。ネコかあ。クリシュ元気かなあ」
レイシアは、猫のぬいぐるみを抱いた、弟クリシュの姿を思い出した。
しばらくは猫を見ていたが、ふわふわの毛に引き寄せられ、猫をなでようと手を伸ばした瞬間、猫はヒュッとベンチから飛び降りた。
「待って」
猫を追いかけるレイシア。猫は路地裏に入ると、サッと身を隠してしまった。
「行っちゃった」
いくらレイシアがすばしっこくても猫には敵わない。ふぅと息をつくと目の前に看板が見えた。
『黒猫甘味堂』
猫のシルエットが小さく添えられた看板。
「あまみ? 甘いものか……。少しくらい贅沢してもいいかな?」
と、普段のレイシアなら自分を甘やかすなど考えないはずなのに、疲れて思考が回らないのか、ふらふらと店に入って行った。
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