オリエンテーション(貴族クラス)
好き勝手言っては去った学園長のことはなかったことにしたいのか、淡々と司会の先生が進行を進めた。
「それでは、これからの日程を確認します。貴族グループの生徒は一年A教室に於いて自己紹介と派閥確認。聖女グループは一年D教室で自己紹介と説明を聞くこと。騎士爵の生徒は体育館Bに移動。移動後担当教諭の指示に従うこと。法衣貴族のうち、子爵は大ホールへ移動。男爵はこの場で待機。午後からは、一斉にテストを行います。テストの結果で、身分関係なく基礎教養のクラスが決まります」
会場は阿鼻叫喚。初日からテストなど予想外にも程がある。
「なお、この日程とシステムを決めたのは学園長です。学園長の独断で執り行われることをお知らせいたします」
司会の教師は保身に必死だ。保護者に報告されたとき、教師陣は悪くないと伝えてもらうために。
「では、移動を開始してください。30分後に開始します」
◇
A教室は貴族対応の立派な教室。そこに王子含め19名の貴族の子女が移動してきた。いくつかのグループに分かれる教室に教師が入ってきた。
「私は、シャルドネ。まあ、まだ名前なんか覚えなくていいわ。仮のクラスだから。とりあえず、派閥に分かれましょうか。その後自己紹介した方がいろいろ手間もはぶけるだろうし」
ざっくばらんに言い切った先生の言葉で、生徒たちが微妙に移動しながら、大きく3つの固まりに分かれた。ようは、「国王派」「貴族派」「中立派」の家の固まりだ。入学前から王都中心に行われるお茶会やパーティーなどで親から言い含められ、顔合わせをさせられていた。なので、ここで戸惑うことはない。レイシア以外は。
「はい、そこのボッチの子! 早く自分のグループに入りなさい」
教師がそう言うと、レイシアは「ありません」と答えた。
「ない? どういうことですか? じゃあ、あなたから自己紹介して。いいわね」
「分かりました」
レイシアは前に進み、カテーシーを決めて挨拶をした。
「わたくしは、クリフト・ターナー子爵の娘、レイシア・ターナーです」
生徒たちは「ターナー子爵?」「聞いたことある?」「知らない」などとざわついていた。
「ああ、そうか。あなたが例の奨学生ですか」
「「「奨学生?」」」 生徒たちはどよめいた。
「はい。そうです」
「ドレスも買えず、入学式に制服で来たのはあなたね」
「そうです」
生徒全員が突っ込んだ!
「「「あんたかい!!!!」」」
レイシアは首を傾げた。
「案内に、制服かそれに準じた服装と書いてありましたので」
「どこの田舎もんよ!」
金髪縦ロールのお嬢様が言った。
「ターナー領ですが」
「それは、どこにありますの」
「ガーディアナ王国の南端の国境。辺境ですが」
「どこよそこ! 本当に田舎なのね!」
「そうですね」
レイシアは、馬鹿にされているのに気づかず、素直に答えた。
王子が何かを言おうとしたが、
それより早く教師が間に入り、会話を止めた。
「では、続きいきます。王子から自己紹介。後は位の高いものから順番にだ。いいね」
そうして、自己紹介が始まった。
男子は王子1 公爵0 侯爵1 伯爵1 子爵1 男爵3
女子は王家0 公爵0 侯爵2 伯爵3 子爵3 男爵4
それが、この学年の貴族編成だった。
貴族は人数が少ないので自己紹介はすぐに終わる。教師が移動を命じた。
小ホールに着くと、上級生の貴族子女が揃っていた。
「ようこそ、グロリア学園へ。私はガーデイアナ王国王女、キャロライナ・アール・エルサムです。入学、心よりお祝いいたしますわ」
いきなりの王女の挨拶に固まる新入生たち。教師が王子に返答の挨拶をさせると、各自自分の所属派閥に行くように指図した。
レイシア以外は、それに従った。
「そうね、社交の準備してなかったのよね」
本来レイシアには、社交がよく分かっていないお父様の代わりに、オヤマーのお祖父様お祖母様が自分の派閥を紹介しようとしていたのだ。が、レイシアがオヤマーに来ないので実現しなかった。
オヤマーの派閥は、現領主(レイシアの叔父様)に気を使い、レイシアには関わらないようにしている。
「挨拶。きちんと名乗りなさい」
レイシアはカテーシーをし、
「わたくしは、クリフト・ターナー子爵の娘、レイシア・ターナーです」
と名乗った。
「どこか、派閥に入れてあげてくれませんか?」
教師が言うが、一年生からの情報で、彼女が奨学生であること、王子が入学式にやらかした制服女子であることなどを聞いた上級生はどこも動かない。
王子が、ならば俺の派閥にと動こうとするが、姉の王女に止められる。
どうしょうもない中で、レイシアは明るく言った。
「私は卒業後、平民になりますので、皆さまお気遣いなく」
会場がどよめき、教師は頭を抱えた。
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