お祝いの夕食

「ここがグロリア学園の女子寮かな」


 お祖父様がカンナにたずねると、カンナは買い物袋をもったまま答えた。


「ああ。ここが学園の女子寮さ、あたしは寮母のカンナさ。うちのレイシアが世話になったみたいだが、あんた何者だい」


 カンナは相変わらずの態度でお祖父様に聞いた。


「儂は隣町のオヤマー元領主、オズワルド・オヤマー。レイシアの祖父だ」


「は? オヤマーの領主で祖父?」


「孫が世話になっているそうで……。かたじけない」


「えっ、ああ、なんだね。そうだね」


 どう対応していいのかわからなくなったカンナさん。面白そうとイリアも出てきた。


「少しばかりだが心付けを納めさせてもらおう」


 そう言うと、メイドのノエルが布袋を差し出した。


「学園には儂から報告しておく。気にせずとっておいてくれ」


 そう言うと、馬車に乗って去って行った。



「あんたには、色々聞きたいこともあるが、まずは夕食だ。って金貨2枚! 20万ルーフかい! ホントに金持ちなんだね、あんたの爺さん」


「金貨! これが金貨。見たことあるけど初めて触ったよ」


 カンナとイリアはしばらく金貨に夢中になった。カンナが「こんな高価なもん無くしたら大変だ」と、部屋のタンスの奥にしまいに行った。そしてもう一度


「あんたのことは、金貨含めて食事の後だ。今日はお祝いにステーキを焼くよ。レイシア、お前のためのお祝いだ。できるまで着替えて部屋で待ってな。イリアは手伝い。いいね」


 そう言って、レイシアを部屋へ向かわせ、イリアにかまどの火を起こさせた。



「「入学おめでとう、レイシア」」

「ありがとうございます。カンナさん、イリアさん」


 三人は食卓を囲み、祈りの言葉を唱えて食事をはじめた。

 今日はパンにサラダ、野菜多めのスープにメインのステーキ。食後にクッキーと紅茶も用意されている。この女子寮の料理としては破格の振る舞いだ。


「まあ、パーティに行ったら、もっと凄い料理だらけなんだけどね。制服で行くところじゃないしね」


 イリアがそう言うと、


「入学式でこりごりです」


 と、レイシアが答えた。イリアは笑いながら言った。


「そうだね。パーティでまた王子とあんただけ制服だったら大騒動が起きるな。あたしとしては見てみたかったけどね」


「嫌です! 巻き込まれるのは!」


 ふくれっ面のレイシアを見て、カンナとイリアは大笑いした。


「あんたも大変だったねえ。イリアに聞いたよ。王子がやらかしたんだって?」


「そうなんです。私は何もしていないのに」


「ま、おかげであたしはいいネタが出来たっと」


「ネタ? そういえば、イリアさん働いてるって……。なにをしているんですか?」


「あたし? ああ、小説家。学生ラノベ作家ってやつね」


「学生ラノベ作家?……イリア……。イリア・ノベライツ様⁉」


「そう、私がイリア・ノベライツ。ノベライツはペンネームだけどな。そんなに売れてないのによく知ってるな」


「ふぁ、ふぁ、ふぁ、ファンです!!」


 レイシアは(レイシアにとっては)憧れの神作家、イリア・ノベライツを前に理性が吹っ飛んでいた。


 ちなみに大して売れていないイリアの小説をレイシアがなぜ知っているのかと言えば、第一部二章の「図書館にて」に書いてある通り、商人が売れ残った本をターナーの孤児院に寄付しているからだ。


 そんなこととは露知らないイリア・ノベライツ売れない作家レイシア・ターナー熱烈なファンは、ここで幸せな出会いを果たした。


「さ、サインくだひゃい!」


「おう、後で新刊やるよ。サイン付きで。あたしからの入学祝だ」


「γΓΘΛΞζΣДξψ……………………………」


 調子に乗ってるイリアと、ぶち壊れたレイシアを見ているカンナは、大きなため息をついてから言った。


「あんたら、早く食べちまいな。片づけたらお茶にするよ。レイシアの話も聞かなけりゃいけないんだからさ」


 カンナは最後のステーキを頬張ると、自分の食器をもって台所に下がった。


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