イリアさんとカンナさん 第一章 (完)

「はあー、まったく。イリア〜!あんた帰ったそうそうなんだい。飯なら出来てるよ。早く手洗いにいきな」

「分かった。いや〜今日は上出来! 高く買い取ってもらえたよ。これで寮費払えるから」


「そうかい。よかったね。あんたも一丁前になったってことかい」

「いや〜、まだまだ。これからだよ」


 一旦部屋に荷物を置き、廊下越しに会話をしながら、イリアは食堂まできた。見たことのない小さな女の子が、皿を並べていた。


「んっ? あんた……、もしかして新入生?」


 レイシアは、きれいにカテーシーをきめて挨拶をした。


「はじめまして。新入生のレイシア・ターナーです。お世話になりますが、これからよろしくお願いします」

「あ、……ああ」


 イリアは、すっかり縁遠くなっていた貴族の礼に(こいつ、関わりたくない)と拒否反応が起こった。


「カ……カンナさん」


「なんだい。ああ、大丈夫…やつはこっち側の人間だ。レイシア、料理人モード100倍に薄めて挨拶。女の子っぽくね」


 急にきたカンナの無茶ぶりに対応しようと頑張るレイシア。


「あっし、いえあたしは、レイシア。レイシア・ターナーと申すものでごぜいやす。いやございます。いごおみしりおきをよろしゅうたのんます」


 もはや王国語崩壊。カンナとイリアは腹を抱えて笑うしかなかった。


「あっ、あんた、ハハハッ、あ~おかしい」


 どうしても笑いの止まらないイリア。


「頑張ってみたのですが……」


 もう一度言い直そうとするレイシア。


「ハハハッ、もういいよ。あたしはイリア。今年から4年生だ」

「あら、そうだっけ。3年生だと紹介してたよ」

「カンナさん~。あたしだって成長してんだからね」


 そんなやりとりを聞きながら、レイシアは言った。


「イリアさんですね。よろしくお願いします」


「おう。よろしく」


 イリアの緊張も、レイシアの変な言葉遣いもなくなった。


「はいはい、ご飯にするよ。イリア座りな。レイシアは盛り付け」


 カンナの言葉に従って、レイシアはスープを盛りつけた。夕飯はパンと肉だんご野菜スープ。それだけあれば充分なのが平民の食事。たまに焼いた肉が付くと豪華な食事になる。


「いっただき……」


 イリアが食べようとすると、


「作物の実りを育む、水の女神アクア様。豊かな実りを行き届けるヘルメス様。豊かな実りを芳醇に変えるバッカス様。皆様の恵みに感謝を」


と、レイシアが祈りの言葉を奏でた。さすがに、祈りを邪魔することはできない。スプーンを元に戻して、だまって聞いていた。


「さすがいいとこのお嬢様だね。あたしも祈った方がいいかな」

「どなたを祈るのですか?」

「あたしが祈るのはカクヨーム様さ。カクヨーム様、あたしにアイデアを授けください。これでよしっと。じゃあ、食べよっか」


 そう言うと、スープを飲んだ。


「なにこれ! めっちゃうまい! カンナさん、どうしたの、これ」

「ああ、レイシアが作ったんだ。材料はいつもと変わんないさ」


「朝の炒め物もおいしかったんだけど、あれも?」

「あれもさ」


「カンナさんの料理よりうまい」

「うるさいね! まあ、でもこの子の料理はちゃんとしてるさ。明日から料理は全部レイシアに任せようか?」

「それいいね!」


 次の日からの料理担当はレイシアになった。そして、イリアの胃袋をがっちりつかんだレイシアは、イリアの警戒心を解くことに成功した。


「レイシア、あんたはイリアから下町の言葉遣いをならいな。料理人モードはきつすぎる。イリア、レイシアを立派な下町の娘として生きて行けるように仕込みな。卒業したら貴族に戻れないんだ。庶民のルールってやつを教えておやり。それが嫌なら、アンタの飯はあんたが作りな。このうまい飯は私らだけで食うからね」


「はいはい、カンナさん分かったよ。協力するよ。レイシア、今日からあんたは私の妹分だ。困ったことがあったあたしに聞くように。いいね」


 レイシアは、こんな素敵な人たちと過ごせることに感動しながら、「はい」とだけ答えた。


 明日は入学式。レイシアの学園生活が始まる。


    第一章 完



………………………………………………


 第2部始まりました!


 この第一章は、本当に予定外でした。プロットでは、一つしかないはずの学園の寮。その中で孤立するレイシア、の筈だったのに……。なぜかカンナさんが現れ、ついでにイリアさんが出てきて、レイシアのよき理解者になってしまいました。


 作者、理解不能です!!!


 第一章は、入学式から始まる予定でしたので、実質ここはオープニングですね。でも、書きながらここも必要なのかもと思えるようになりました。


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 次は閑話挟みます。なかなか入学できないね。

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