閑話 お姉様のために
お姉様がいなくなった。学園に通うため王都に行ったからだ。
お父様との二人の食事は味気ない。お姉様の偉大さが今更になって感じられる。
男二人の食事。黙々と食べているのは本当につらい。
「お父様」
とりあえず、何かしゃべろう。
「なんだい?」
「お姉様は、学園を卒業したらどうするのですか? 奨学生ってなんなのですか?」
聞きたいことはお姉様についてしかない。僕は思い切ってお父様に聞いてみた。
「うーん。レイシアがどうするかは、卒業近くならないと分からないのだが……。分かっていることから話そうか」
「おねがいします」
「まず、奨学生とはな、お金を払わずに学園に通う人の事を言うんだ。これは分かるな」
「はい」
「だから、華美、う~んと、ドレスや宝石にお金をかけることが出来ないんだ。それが出来るなら授業料を払えとなる」
「そうですね」
「だから、パーティーやお茶会に出られない。そうすると、貴族同士のつながりが作れない。だから、貴族に嫁にいけなくなる」
「お嫁に行かないのですか」
「そうだな。普通は貴族同士結婚して、貴族のままでいることを目指すな。そうすると、結婚相手の領地に行くことになる」
「お姉様が、他の領地に行ってしまう⁉」
「だが、レイシアにはその選択はなくなるんだ」
「じゃあ、ここに戻ってくるのですか?」
「それは分からん。向こうで就職するか、こちらに戻るか。平民や法衣貴族と結婚するかもしれないしな」
「お姉様が戻るにはどうすればいいのですか?」
「そうだな。戻ってきたくなるような何か、戻りやすくなる環境が整っていればかえってくるのではないか?」
「そうですか! お姉様が戻りやすくなる環境。先生と話してみます」
「そうだな。そうしなさい」
お姉様が帰ってくる! その期待だけで味気ない食事がおいしく感じられるようになった。
◇
「ということで、先生。なにをしたらいいでしょうか?」
僕は翌日、孤児院で先生に相談した。
「そうですねえ。レイシアが卒業すると、今度はクリシュあなたが王都に行って学園に通うのですよ。それは分かっていますか?」
「そうですね。忘れていました」
「その時、レイシアが王都にいた方がいいですか? 戻ってきた方がいいですか?」
僕は少し考えてから、決めた。
「帰ってきてほしいです。僕はこのターナー領で領主になります。その時、お姉様にそばにいて欲しいのです」
「そうですか。でしたらあなたは、領主になるための環境を整えておくことが必要です」
「環境? ですか?」
「そう。サチが言っていました。『レイは、人に頼るのが苦手な子だ。だから人付き合いが希薄』だと。あなたがそこをカバーしながら、領主としての才能を人々に見せつけるのです」
「どうすればいいのですか? そんな凄そうなこと。僕にできますか?」
「できますよ。簡単です。まずは、孤児院の先生になりましょうか」
「先生? ですか?」
「ええ。最近法衣貴族の子供たちも字を習いに来ているでしょう? その子たちの先生になりなさい」
「年上ですよ。みんな」
「いいのです。だからいいのですよ。あなたは、彼らなど足元にも及ばないほど勉強をしてきました。そして、貴族としての立場も上です。今のうちに教え込むんですよ。あなたたちの未来の領主は、立場も、頭も、指導力も、君たちより上だってね」
「出来ますか?」
「大丈夫です。そして、そんなあなたを指導したのが姉であるレイシアだと教えるのです。君たち二人でターナー領をよくするのだと。あなたが領主になるとき、年上の彼らはこの領の中で、大切な仕事を任されている頃でしょう。あなたが教えた生徒がたくさんいたら、好きな政策やりやすくなると思いませんか? レイシアと一緒に」
僕は、その状況を考えてみた。お姉様と一緒にこの領地を豊かにする。そのために貴族の信頼を勝ち取る。確かに素敵かもしれない。
「分かりました。僕、孤児院で先生をします!」
「そうですか。では、これからやり方を指導しましょう。来週から先生としてお願いします」
「はい!」
こうして僕は、孤児院で貴族を教える先生になった。
すべては、お姉様のために。
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