すれ違い

 カンナとレイシアが出かけている昼間、イリアは、のそのそと起き出してきた。


「カンナさ〜ん、おはよう。ご飯ある?」


 食堂のテーブルを見ると、ナプキンを掛けられた朝ごはんが置いてあった。


「なんだ。カンナさん出かけてるのか。まっ、いいか。いただきま〜す」


 イリアは、今日の炒めものいつもよりおいしい、と思いながら食事を終えた。

 手早く食器を洗い片付けると、部屋に戻り、仕事道具を持って出かける準備をした。


「ちょっと留守になるけどいいよね。鍵閉めでおくし。とにかくこれを金に換えないと」


 そうつぶやいて、玄関のドアから出ていった。



 夕方。カンナとレイシアが帰ってくると、寮の玄関には鍵がかかっていた。


「なんだい。イリアはお出かけかい」


 そういいながら、カンナは鍵を開けてドアをひらいた。


「あんたもなかなかイリアに紹介できないねえ」


 そう言いながら、レイシアへ着替えるように指示した。


「ああ、それからねえ。あんた、出かけるときは必ず制服で出かけな」

「なぜですか?」


「あんたみたいな田舎もんは、すぐ騙されてひどい目に会いやすいんだ。その点、学園の制服を着ていたら少なくとも貴族の子だと分かるだろ。市場で値段ふっかけられても、それ以上のひどい目には合わないさ。学園に手を出す度胸のある者はいないのさ。ま、安全策だよ」


「分かりました。市場でふっかけられたら、料理人モードに……」

「やりすぎ注意だよ、レイシア! 出禁になるよ! 売り手の心折ったらだめだからね!」 

「難しいですね、師匠」


「は~、あんたって子は……さ、着替えたら夕飯の準備だよ。イリアは夕飯まで帰ってくるさ。あんたの料理だしてやりな」

「分かりました。すぐ着替えてきます」


 そういって、部屋に入っていった。



 朝仕込んでいたスープを温めるために薪を燃やす。ターナー領と違って薪は買うものだ。レイシア的には、拾ってくればいいだけの薪も、王都ではおいそれと拾いに行くことが出来ない。見習い冒険者の仕事に薪拾いがあるくらいだ。

 貧乏な平民は自分たちで取りに行くこともあるが、たいがいは商人が冒険者ギルドから買い付けた薪を買うのが一般的。


「学園から予算が決められただけしか来ないからね。薪は一日このくらいしか使えないのさ。朝使ったから残りはこれだけさ。この薪で出来ることをやりな」


 明日の朝食用に野菜スープを残し、小さな鍋で3人分温めた。そのわきで、半額まで値切ったボア肉をミンチにし、小さく丸めてスープに入れた。


「本当はハンバーグにしたかったけど、薪がないならしかたないわ。肉団子スープにしましょう」


 と、一人つぶやくと、お風呂の水を汲みに表の井戸へ行った。先にカンナが汲んでいたのを手伝うためだ。


「おや、気が利くねえ。水汲みは当番制だよ。明日はあんただからね、レイシア」

「わかりました。食堂とお風呂ですね」

「そうさ。食べることと、身だしなみ。これだけはちゃんとしておきな。と、もうすぐ7時。そろそろイリアも帰ってくる。食事の盛り付けおねがいするよ」


 そう言った時、「ただいま~ カンナさん飯!」と、大声で呼ぶイリアの声が聞こえた。

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