制服

 買い出しを終え、朝食を作ったカンナとレイシア。作ったと言っても、パンを切って、野菜とベーコンを炒めただけ。それだけだと、かまどの火がもったいないので、夕食の煮込みも仕込んだ。

 レイシアの手際の良さに、「本当に下働きさせられてきたんだねえ」と思いをはせるカンナだった。


「さあ、ご飯を頂くよ」


 カンナがテーブルに着くようにうながすとレイシアは「もう一人の方は?」と、まだ会っていない寮生の事を聞いた。


「ああ、イリアかい。どうせ昼まで寝てるさ。気にしなくていいよ。そのうち会えるさ」


 レイシアはテーブルに着くと、祈りの言葉を唱えた。


「作物の実りを育む、水の女神アクア様。豊かな実りを行き届けるヘルメス様。豊かな実りを芳醇に変えるバッカス様。皆様の恵みに感謝を。」


「ずいぶん、たくさんの神様にいのるんだねえ」

「はい。ご加護を受けていますから」


 カンナは、(さすが貴族の子はちがうねえ)と感心しながら食事を始めた。



 片づけをした後、レイシアは物置部屋に連れて行かれた。


「さあ、ここに制服やらカバンやら教科書やらが置いてある。これは、卒業したお嬢様方が学校に置いて行ったものだ。制服は持って帰って悪用されても困るからね、学校で回収するんだ。教科書は……勉強したくないんだろうね。きれいなものが多いよ。好きに使いな。ただし、売ったり無くしたりしたら駄目だからね。数の管理はきっちりしているからね」


 レイシアは部屋の中の宝物に、目を丸くして見つめていた。


「着てみてもいいですか?」


 この服を着て学園に行くんだ。そう思うと今まで現実味がなかった学園に通うということが、いきなり身近に感じられた。


「ああ。選んでやるよ。あんたには、これとこれだね。帽子はこれがきれいだからこれにしな。靴下は新品がある。着替え手伝ってやるよ」


 カンナに言われた通り着替えた。


「こうしてみると、立派なお嬢様だねえ。市場で値切ってたあんたとは大違いだ」


 大笑いしながらカンナはレイシアをほめた。レイシアも、動きやすくおしゃれな制服に満足げだ。


「あとは靴だね。ここら辺りをためしてごらん」


 レイシアは靴をいくつか試したが、どうしてもつま先が痛くなった。


「足見せて見な。……ああ、あんたは働き者の足だね。じゃあこっちだ」


 カンナは先の丸い靴をいくつか出して、レイシアに合う靴を選んでくれた。


「カバンはこれ。教科書は、学校が始まってからでいいか。ほら持って」


 レイシアにカバンを持たせると満足げにうなずいた。


「立派なお嬢様の出来上がりだ。さ、学園まで行くよ。どうせどこにあるのかも知らないんだろ。馬車なんか出さないからね。歩くんだよ」


 そういうと、さっさと玄関まで歩いて行った。レイシアは、嬉しそうについていった。



 町の外れに学園はあった。

 広い! とてつもなく広かった。


「兵役訓練や乗馬、魔法の訓練もあるからねえ。街中じゃ危ないんだ。隣の森で狩りもする。もっぱら、騎士や兵役コースの野郎どもだがね。向こうではダンスの練習やもパーティの練習。貴族コースだね。メイド志望もそこで訓練してるさ。向こうは研究所。とりあえず、明日はまっすぐここに来な。受付がここだ。覚えたかい」


「すごい。すごいです! 街一つ入るみたい」

「街一つ入るよ。それくらい学園で学ぶのはすごい事なんだよ。立派に学んどいで」

「はいっ!」


 レイシアは、明日からの学園生活に、胸をときめかせた。

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