奨学生制度

 領主お父様神父先生レイシア当事者。3人で学園のシステムについて話し合った。


 なにしろ、奨学生制度なんてものは、誰も聞いたことがなかったから。領主に至っては、自分が学生時代には、領主コースしか選択肢がなかったため、細かい学園のシステムなど興味なかったせいで、他のことはよく分かってなかったのが実情。


 結局、細かい情報は神父に頼るしかなかった。



「ふむ。なるほど」


 資料を読み終えた神父は両肘をテーブルにつき頭を抱えた。


「どうした、バリュー。なにがあった」


 領主クリフトは、神父を名で呼んだ。よほど内容がきになるようだ。自分では分からなかったことでも見つけたのか? そんな感じだ。


「まず、現状を話しますと……、この入学金と授業料はなんとか払えるかもしれません」

「そうか! では大丈夫なんだな」

「無理ですね」


 バリュー神父は無情に答えた。


「なんでだ! 払えるのではなかったのか!」


「払えますが続きません。生活費、教材代、衣装代、パーティーのための費用。かかる経費は授業料どころではないのですよ。どこにあるのですか?そんな予算」

「では、どうしろと」


「ですから、この書類が送られてきたのではありませんか」


 書類を押し付けながら神父が言った。


「奨学生制度について、か?」


「そうです。理解していないようなので、かいつまんでメリットとデメリットを言います。まずはメリット。入学金、授業料、寮費、教科書代などが無料になります」

「なんだと! すべて無料だと? なぜだ!」


「そうまでしても、貴族の子弟子女は学園に入れなければならないのです。それが神との契約なのですから」


 神父はそう言ったのだが、上手く理解することが出来ない父クリフトであった。神は人々にとってはその程度の存在。大半の神父たちに至っても便利な道具扱いでしかなかったのだ。


「神との契約?」


 レイシアは、契約という言葉で、特許申請の時のことを思い出した。


「神様との契約でしたら、守らないといけませんね」


 レイシアが口をはさんだ。


「勉強はここでもできます。無理に行かなくてもよいかと思っていたのですが、神様との契約ならば破るわけにはいきませんね」


 ((さすが毎日教会に通っているだけはあるな))大人二人はそんな風に思った。


「よろしいですよ、レイシア。では、デメリットを聞きなさい。クリフト様も」


 バリュー神父の真剣な声に反応して、2人は居住まいを正した。


「まず、奨学生制度を受け入れたものは、爵位貴族クラスに入れなくなります。本来の貴族としての未来を失うことになります」



 神父の話をまとめるとこうなる。


 学園には、土地持ちの貴族と、いわゆる公務員的な一代限りの法衣貴族、それに騎士として一代爵位の騎士爵の子供たちが全員集まる。そこで、大きく4つのコース分けがされる。


 貴族コース

 官僚(法衣貴族)コース

 騎士・兵士コース

 一般職コース


 この中から、細かいクラス分けが行われるのだが、将来を見据えてどのコースを選ぶか、間違えないようにしないといけない。ただし、貴族コースを取らなければ、土地持ちの爵位を受けることは出来ず、また、女性であれば貴族への婚姻のチャンスはほぼなくなる。

 奨学金制度を使うという事は、お金のない法衣貴族や騎士爵の子の救済策でできたものだが、もともとその地位の学費は安く使うものはいなかった。本来の爵位のある者は、子供のためを思って手を出すものはいない。ゆえに使われることのない制度だった。



「つまり奨学生制度を使えば、中央の貴族とお付き合いしなくて済むということですね!」


 レイシアの声がはずんだ。なんて素晴らしい制度! 逃してなるものか! レイシアはそう思った。


「お父様、奨学金制度受け入れましょう!」

「レイシア、お前な……」


「こんな素晴らしい制度、利用しないともったいないではないですか! お金がかからないのですよ」


レイシアは必死にアピールした。しかし、貴族としてのプライドを持つ父クリフトは、レイシアの言葉は受け入れられない。


「お金くらいなんとか」

「なんとか出来ないのが、今の現実です!」


 痛いところを突かれたクリフト。しかし、貴族としての常識が邪魔をする。


「貴族として生きられなくなるんだぞ。分かっているのか」

「ならばもし、私が奨学金制度を使わずに学園に行ったら、クリシュの入学金は払えるのですか?」

「…………」


 考えても答えが出ない。


「クリシュが領主になれなかったら、それは私とお父様のせいになりますよね。そんなことはしてはいけないのです! 大切なのはクリシュです」


「しかし、お前はどうなる!」

「私はどうにでもできます! 中央の貴族と付き合う以外なら!」

「……お前な〜」


「私に出来ないのはむしろ貴族の暮らしです! 奨学金制度は、私のためにあるようなすてきな制度ではないですか」


 レイシアは、思いつくまま喋っていたが、正解にたどり着いた気分だった。


 お父様も神父様も、『『確かに』』と思ってしまいながらも、それでいいのだろうか? と悩み始めた。


 ノリノリのレイシアと、とまどう大人たちは、日が暮れるまで話し合った。

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