レイシア12歳 冬~夏

二月


 お祖父様からお父様へ手紙が届いた。『今年もレイシアに淑女教育をつける。なんならずっと預かってもいいぞ。お前に淑女教育などできないだろう。早くこちらによこせ。学園に入る前に人脈をつけておかなければいけない。儂と妻に任せろ。悪いようにはせん』といった内容の言葉が、貴族らしい文面で書かれていた。


「こんなのが来ているんだが……」


手紙を渡されて、内容を確認したレイシアは、ため息をついた。


「私の所にも手紙が来ていますが……、読みます?」


 レイシアが手紙を渡そうとすると、やんわりと拒絶された。


「いや、いい。前に見せてもらった時のように、猫なで声のような甘い感じで書かれているんだろう。あれは……、読んでいて辛いな」

「ええ……、辛いですね……」

「「はぁ――――」」


 思い出すだけで、ついついため息をついてしまうほど、熱のこもった手紙の圧が2人をおそった。


「で、行くのか?」

「お断りします! お祖父様と商売の話だけならしてみたいのですが……」


「しかし、ここでは淑女教育はできんぞ」

「淑女、あきらめてはいけませんか」


「……」

「……」


「「はぁ――――」」


 ため息しか出ない親子だった。




 クリシュの誕生日には、お母様のために陰膳を供え、三人で食事をした。



三月


 いよいよ、来年は学園の入学年。学園は二期制。三月から六月が前期。九月から十二月が後期。夏冬2ヶ月ずつ休みがある。

 1年前なので、入学のための資料が送られてきた。


「入学金と授業料ってこんなにかかるのですね」

「ああ。私も知らなかった。学生の時は気にもしていなかったからな」


 貴族の学園は、寄付金という入学金と授業料によって成り立っている。それは、爵位によって額が変わっていく。なぜなら、貴族を全員入学させるため。土地なし収入なしの法衣貴族と、土地有りの貴族では同じ金額のはずがない。仮にもターナー領は土地持ち子爵。それなりの額が提示されていた。


「今のままでは借金できるか……。お前は『お祖父様』に聞いてみてくれ。私は学園と国に掛け合ってみる」

「分かりました」


 レイシアは手紙を書いて、お祖父様へ送った。



四月~


 サチに見合い話が来た。レイシアと五歳違いのサチは現在17歳。いろいろあって、縁談はご破算となった。


「いやあ、もういいや、縁談は。あたしはレイと一緒にいることにするよ。縁談はもうこりごり」


 そう笑って、レイシアに仕えることを誓った。



 お祖父様からは、「レイシアを養子に迎えたい。そうすれば、借金も学園の費用も心配することはない」という手紙がきた。

 レイシアも父クリフトも、丁寧にお断りした。

 養子の誘いは、六月まで7回手紙で送られてきた。8回目、オヤマー領主として正式に対談を申し込みがあった。

 七月初めにクリフトとレイシアは王都で対談をし、正式にお断りをした。お祖父様は面子をつぶされる形となった。お祖父様としてはレイシアのため穏便に収めたかったが、次期領主の息子をはじめ周りの者たちが、ターナー領を疎遠になるように働きかけた。



八月


 国と学園から、『奨学生制度について』という案内の手紙が来た。貴族は全員学園に通わなければいけない。そのための特別措置がするように「奨学生制度」なのだが、今まで誰も使ったことがないので、忘れ去られていたのだ。


 料理長と仕込みという狩りから帰ってきたレイシアは、お父様からそのことについて、神父様を交えた話し合いをするように提案された。

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