70話 レイシア12歳 冬

 11月、誕生日を過ぎたレイシアは12歳になった。誕生日は特に何もしないが、スープハンバーグを作り、4人分の食事を用意して食べることにしている。お母様の事を忘れないように。


 今年の天気は良好で、復興もそれなりに進んだターナー領では、災害前の8割程の農産物の収穫に戻った。ここで復興は頭打ちになりそうだ。元通りとはなかなかいかない。それが災害というものだ。借金はなかなか減らないが、国からの借金は待ってもらいながら誠実に返そうとしている。



「レイシア! これは何だ⁉」


 オヤマーからの手紙を読んでいたお父様が、レイシアのもとに駆け寄って来て手紙を渡した。オヤマーからの借金の請求が70万リーフ減っていた。そして、「レイシアが稼いだ分は引いておいた。初年度の半年でこれだ。来年はもっと多くなるだろう」という内容が貴族の持って回った言い回しで書かれていた。


「レイシア、お前いったい何をしたんだ?」


「特許使用権が20万リーフ。販売特許料が5%で50万リーフ。売り上げが1000万リーフ? 1個200リーフとして5万個。5ヶ月で月10000個。28日で割ると1日350個販売くらいか。これからの商品としてはまあまあね」

「何を言っているんだ?」


「あれ? お父様に言っておりませんでした? お祖父様とオヤマーの特産品、米の商品開発を見せて頂いた時に、ちょこっとお手伝いしたら特許申請してもらえて……。私特許申請者なのですよ」

「……なんだと! 何がどうなっているんだ⁉」


「ですから、特許持っているのですよ。私が」

「そうなのか? いや、どうなんだ?」


 レイシアの、あまりの斜め上発言に頭がついて行かないお父様。神父を呼び出すように執事に命じた。



「つまり、米を使ったまったく新しい料理を生み出したのがレイシアなのですね」


 神父が全員に分かりやすくなるように、かみ砕いて言い直した。


「米という、酒の原料を、主食として食べるための開発に一役買ったと。それをオヤマーの領主、アリシア様の父親がレイシアの特許として登録したと。そういうことでよろしいのですね」

「そうです! そう言ってましたよね」


「興奮していたため、いろいろ端折はしょっていましたね。ところで、それは今再現できますか?」

「材料がありません」


「なるほど。残念です。クリフト様、素晴らしい事をレイシア様はやり遂げました。ターナー領の救いの神になるかもしれません!」

「そんなにか?」


「ええ。……まだお分かりになっておりませんか? では、明日詳しく説明いたしましょう。レイシア、私と教会でお話ししましょう。クリフト様に分かるようにするにはどうすればいいのか話し合いましょう」

「分かりました、先生。お父様に分かるようにですね」


 その後、3日かけて、お父様は説明を受け、理解したのだった。


 こうして、レイシアの偉業は、やっと関係者の知ることとなり、レイシアは皆に褒めたたえられて、新年をむかえることとなった。

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