特許! 特許! 特許!

 眼の前に出された丸い物体。ピンク、緑、白…… これは何だ?


「さあ、試食していただけるかな」


 お祖父様は一つつまむと米玉を口の中に放り込んだ。

 領主自ら毒見をした新商品。ギルド長も神父様も試しにと口にした。


「「……………………」」


 あまりの美味しさに固まる神父。あまりの美味しさに食べ続けるギルド長。


「これは……売れる!」

「これを作り出したのが、ここにいるレイシアだ。だから今回はレイシアの名で登録を行う。」


 レイシアは急に自分の名前を呼ばれたので、最初は何を言われたのか分からなかった。


「お祖父様?」

「んっ? どうした?」


「私の名前が出てきましたが……」

「おお、お前の名で登録する。特許の権利は全てお前のものだ」


「えっ?……まあ………………本当ですか、お祖父様!」


 レイシアはついつい大声で聞いてしまった。淑女教育では大声で聞くなど言語道断なのに。

 お祖父様は笑いながら言った。


「やっと素が出たな。お前にはこっちの方が似合っているのかもしれんな。さあレイシア、勉強だ。きっちりと覚えていくようにな」

「はい」

「ではギルド長、始めようか」


 ギルド長は、レイシアに様々な説明と質問をしながら書類を書いていった。レイシアと領主に確認を取ったあと、レイシアは書類にサインをした。


「では神父様、よろしくお願いします」


 ギルド長が恭しく神父様に書類を手渡した。


「ではこちらへ」


 神父様が先頭し、お祖父様、レイシア、ギルド長は、教会の礼拝堂へ向かった。

 礼拝堂にいた一般人は、儀式があると説明され一時的に外に出された。従者達も入れない。全くの貸し切りの状態になった。


「これから行われるのは、この案件が特許として認められるか。どのような特許になるか。それを定める儀式です。神聖な儀式ですので、関係者以外立入禁止なのですよ」


 ギルド長がレイシアに解説した。

 4人は礼拝席へ入と祭壇の前に上がった。


「では、始めましょう」


 神父様が祭壇の脇にある四角い石の上に紙を置いた。左側の石には契約書を。右側の石には白い紙を。


「レイシア様、こちらに右手をかざして下さい」


 レイシアは祭壇の中央に置いてある水晶の玉に手をかざした。


 その時、締め切った室内に、ふわりとした風が吹いた。


 神父が祈りの言葉を発した。祈りの言葉が終わった時、神父の体がビクンと震えた。……2秒……3秒……。ほんのわずかな時間、全ての動きが止まった。ほんのわずかな時間のはずだが、そこにいた者にとっては、ひどく長い時間に思えた。


 世界が変わったような感覚。


 お祖父様、ギルド長、そしてレイシアは、自分がどこに立っているのか分からなくなった。


 その時、神父様はレイシアの方に向きを変えた。まるで神が乗り移ったかのように雰囲気が変わっていた。雰囲気も、声も……。


 "知恵有る者よ 知恵有る者よ

 汝はなにを求む。答えよ"


 レイシアは心に浮かんだ言葉を口に出した。


「私は……、私は賢くなりたい。皆を救えるように」


 "知恵ある者よ。汝が作りし物は皆を救えし物なるかや"


「はい。新たな食は、人々の飢えを凌ぐでしょう」


 "良きかな、良きかな。知恵ある者よ。我に求めしものを答えよ"


 レイシアは心のままに、浮かんできた言葉を唱えた。


 『讃えよ 讃えよ 我が名を讃えよ

  我を讃える者 平等であれ

  富める者も 貧しき者も

  老いる者も 若き者も

  男なる者も 女なる者も

  全ての者に 知恵を与える

  全ての者は 知恵を求めよ

  知恵を求む者 我が心に適う

  知恵を求む者 男女貴賤別無し』


 それは、レイシアの師であるバリュー神父がよく口ずさんでいた、聖詠の一部だった。


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