商業ギルド
次の日から、お祖母様の淑女教育が始まった。
◇レイシア視点◇
お祖母様が私に、一生懸命貴族の女性の常識を教えてくれる。そのことはありがたいけど……。
私を呼ぶとき、「アリシア」ってお母様の名前を呼ぶ時が多くなった。最初は言い間違いかと思ったけど……。
お祖母様は、私を見ていない。お母様を見ているんだ。
つま先が痛い。靴が合わない。
ドレスがきゅうくつ。
笑い方?……普通に笑えないの?
料理がしたい。
走り回りたい。
宝石? 興味がわかない。
アクセサリー? 猫の髪留めで十分。
勉強したい。
働きたい。
動き回りたい。
私は私らしく生きたい……。
私はお母様じゃないのよ、お祖母様……。
◇
それでも
「たまには儂にも貸せ。教会に行く」
お祖父様が、レイシアを連れ出した。今日一日は淑女教育から開放された。
「疲れていないか? お前は頑張りすぎだ、レイシア」
レイシアは曖昧な微笑みで返した。淑女教育の賜物であった。
「まあいい。今日はお前が本当に知りたかった事を教えよう。儂からのご褒美だ」
お祖父様は、レイシアを教会に連れて行った。今回は、商売の神を祀るヘルメス教会だ。
教会に着くと神官が出迎えてくれて、レイシア達は立派な応接室に案内された。
「レイシア、今日は特許の取り方について教えてやろう」
レイシアは目を大きく開いた。
「いいのですか? お祖母様が……」
「教会でお祈りしたついでに、儂の仕事をするだけだ。レイシアとしては、今日は教会にお祈りに来た、それだけだろう?」
お祖父様はにっこりと微笑んだ。
「ありがとうございます!」
レイシアは心の底からお礼を言った。固まっていた心が動き出した。
「ようこそいらっしゃいましたオヤマー様。お待ちしておりました。おや、そちらの方は?」
教会の方とは思えない、商人のような服を着た利発そうな男が挨拶をしてきた。
「おお、まずはこの子を紹介させてくれ。儂の孫のレイシアだ。かなり賢いぞ」
「レイシア・ターナーです。はじめまして」
「これはこれは。
ナズナはレイシアに丁寧な挨拶を返した。レイシアの振る舞いからただの子供ではないと察したから。
「今日は、このレイシアに特許について学ばせたい。今日の特許案件をこの子に教えながら進めたいがよいか?」
「もちろんです。では今回の案件についてお教え下さい」
レイシアは、疑問だらけだ。
「お祖父様?」
「なんだい?」
「なぜ、ギルド長が教会にいるのでしょうか? なぜ教会で特許の話を?」
「ああ、そこからか。ギルド長説明してやってくれ」
「はい。レイシア様、今いる場所は教会に隣接している商業ギルドの一室です。商業ギルドと教会は棟続きになっているのですよ。ヘルメス教会の隣には、必ず商業ギルドがあります。特許に申請には、ギルドと教会が必ず必要ですからね。今日進めていきながら理解されることでしょう」
ここは商業ギルドなのか、とレイシアは不思議に感じながらも納得した。納得したが、なぜ神父様が商業ギルドにいるのだろう? と、新たな疑問も出てきた。
「では、進めようか。今回の特許申請はこれだ」
お祖父様がそう言うと、従者がいくつもの『新しい米玉』を差し出した。
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