お祖母様の怒り

 いくつもの新しい味の米玉を持たせて、お祖父様とレイシアは家に帰った。お祖父様は料理人達に米玉を試食させた。料理人達はその斬新な味に驚愕した。


「これをレイシア様が?」

「ああ、レイシア主導で酒蔵の奴らが作りおった。今後、レイシアが何か作りたいと言ったら、自由に調理場を使わせるように。協力を惜しむな。いいな」


「しかし」

「何だ」


「本当にレイシア様が作られたのですか? 私には信じられません。それに、調理場は危険な場所です。お嬢様が万一にでも怪我などなさられたら……」


「そうか。ならレイシアの腕を試してみるがいい。おい、レイシアを呼んできてくれ」

「はい」



 調理場は、異様な熱気にあふれていた。そうそこは、レイシアの、レイシアによる、レイシアのための、クッキング・ショータイムになっていた。


 ヒラリとターンすれば、いつのまにか細切れになり飛び散る食材。フライパンで全てを受け止めると強火で一気に炒める。同時に薄くスライスされたハムは、米と具材を優しく包んでいく。隙のない武道家の演舞のような立ち回りで、あっという間に米玉が並べられてゆく。


 「さすがにあれだけ作れば、効率化のパターンが見えてきましたわ。開発室より設備が整っていますし」


 ふぅと息を吐くと、にっこりと料理人達に微笑むレイシア。盛り上がるお祖父様サイドと、凍りつく料理人サイド。


「さあ、召し上がれ」


 レイシアが、料理長に出来たての米玉を出そうとした瞬間、


「何をしているの、あなた達!」


 お祖母様が大声で乱入してきた。お嬢様が料理をしていると、ポエムから知らされたのだ。


「おお、ナルシア。いい所に来た。これを食べてごらん。レイシアが作った……」

「レイシアが作ったですって! あなた、何をさせているんてすの。子爵の令嬢に料理なんて!」

「いや、これがなかなかの……」


「何を言っているのですか! レイシア、あなた何をしにオヤマーまで来たの? 貴族令嬢としてのマナーや振る舞い、社交を学ぶためよね。今のあなたは、貴族令嬢として失格ですよ。二度と調理場には入らないように。分かったかしら」

「いや、しかしだな、レイシアの作った……」

「あなた! 何を言っているのですか! 祖父としてきちんと教育なさい!」


 お祖母様の怒りは、誰も止めることは出来なかった。そのまま1時間ほど、お祖母様の説教は続いた。




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