魔改造の集い
「オヤマーと言えば酒。いや、魚。さけ? さかな? 鮭の塩漬けなんかどうだ? ほぐした身を中の具に」
そのつぶやきがトリガーとなった。
「ほぐすなら鶏そぼろは!」
「肉ならボア! ボアの串焼きは……」
「酸味なら、うちの秘伝の漬物が……」
「甘いジャムを入れたら……」
「ハムの代わりにベーコンは……」
「ならば、岩海苔をつけても…」
「わかめ、わかめは巻きやすそう……」
各々思いついたものを作り出す。家に取りに行くものも。料理人レイシアは大満足。切磋琢磨こそ料理人としての最高の修行。
「お嬢様! 試食おねがいします!」
いつの間にかレイシアは、試食兼ダメ出し係になっていた。口調もお嬢様に戻った。
「このそぼろ、味が濃すぎね。刻んだネギを炒めて混ぜたらどうかしら」
「このお肉おいしい! もっと大きく切って、大きな米玉にしたら?」
適正な批評と適切なアドバイス。いつの間にかレイシアの呼び名が「お嬢様」から「先生」と呼び方が変わっていた。
◇
お祖父様はすっかり忘れ去られていた。レイシアにも、食品開発部長にも。
静かだった食品開発室が、いきなり活気づいた。騒音、歓声、拍手など、盛り上がりが気になってしょうがない。
「何が起きている? 誰か見てこい」
近くにいた従業員が食品開発室へ駆けつける。
「室長! 開発室長」
「なんだ、この忙しい時に」
「領主様が何事かと」
『『忘れてた!』』
開発室長とレイシアは目を合わせた。
「お嬢様、どうしましょう」
「10分! 10分でなんとかするわ。10分後に試作品を持っていくと伝えて」
従業員は領主様へ伝えに帰った。
「みんな聞いて! 調理担当は、最初に作ったハムの具を作って! 50セット。でき次第全員でハム入りの米玉を作る。その間、私はハムをスライスするから、できた所からハムを巻くように」
「「「イエス マム!」」」
強力な統率力とチームワーク。一糸乱れぬ行動はもはや芸術の域。
ジュージューと焼き上がるハム。
キュキュッと握られる米玉。
ヒラヒラと舞い上がる薄いハム。
サッと受け取りスッと巻く。
あっという間に70個のハム巻き米玉が出来た。
「調子に乗って作り過ぎたわね。後3分。室長行くわよ。二人ほど米玉の乗ったお皿を持ってついてきて。後の人は開発を続けるように」
「「「ラジャー」」」
食品開発室でのレイシアの株は天井を超えてしまった。
◇
「お待たせしましたお祖父様。こちらが試作第一号です。まだまだ改良の余地がありますが、それなりのものは出来たと思います」
本気でそう思っているレイシア。開発室長は焦りまくる。無邪気な天才って凶器かも。
「私が先に食べるべきでしょうが、あいにく試食でお腹が、」
「わたくしが食べます、お嬢様!」
室長が慌てて食べた。これで満足出来ないお嬢様って……何者? 室長の心の声は誰にも届かない。
「お祖父様、どうぞ」
改めて差し出された米玉を見ると、どこにも米がない。ピンクの塊があるだけ。
「これはなんだ、レイシア。ただのハムではないか」
「まずは食べてみて下さい」
お祖父様は不審がりながらも、指でつまんで口の中に放り込んだ。
「………………!!!!」
2つ、3つ、4つ、次々と無言で食べ続けるお祖父様。
「いかがですか、お祖父様」
レイシアの問いかけに、はっとするお祖父様。無意識で食べ続けていたのに気付いた。
「これは! なんだ……」
「米玉ですわ。炒めたハムを具材に、薄切りのハムで巻いてみました」
「……そうか、塩か! おい、お前たち食ってみろ! 米が、米の未来がここにあるぞ」
従業員も従者も食べてみた。そこからは取り憑かれたように食べ続け、あっという間に皿から米玉は消え去ってしまった。
お皿を持っていた開発室のスタッフ二人は、「ではこれで」と足早に去って行った。早く新しい米玉を作りたかったから。
「まだまだ改良の余地がある試作品ですが、ご満足頂けたようで安心しました」
聞いていた全員が固まった。まだまだって何?
「これで完成ではないのか、レイシア。改良とは……」
「今、開発室でスタッフ一同新たな米玉を作っていますわ。いくつかは満足いくものが出来そうです」
「何だと……、行くぞ」
その後、全員で開発室に乗り込み、試食を続けた。
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