食品開発室

「味が足りません」


 レイシアは率直に答えた。


「味が単調です。ほのかな甘みとおいしさはありますが、他の味が足りません。塩味、苦味、辛味、酸味。何かと組み合わせてはいかがでしょうか?」


「組み合わせるとは?」

「う〜ん。話すより作ったほうが早いのですが……」


「作るだと、お前が?」

「ええ。材料さえあれば」 


「ならば作ってみなさい。開発室長」

「はいっ!」


「レイシアを食品開発室へ。手伝ってやれ」

「お嬢様をですか?」


「できなければ出来ないでいい。ものは試しだ」

「……はい」


 開発室長は、怪我をされたら大変と思いながら、お嬢様の思いつきを形にしないとと、プレッシャーを感じながら食品開発室へ案内した。


「皆、こちらはオヤマー様のお孫様だ。これから、お嬢様が食品開発を体験なさる。協力するように」


 レイシアは綺麗な挨拶をすると、食材と調味料がどれくらいあるか確認させてもらった。


「まあ、見たことのない調味料が沢山あるわ。さすがね。食材もこんなに……。無理せずわかるもので作りましょう」


 レイシアは、まず米玉の作り方を聞いた。そしてまずは塩とハムを手にした。


「ハムですか、切りましょうか」


 調理担当が声をかけると、レイシアは「大丈夫です」と断り、おもむろに一回転、フワリとスカートが広がるターンを決めると、太ももに隠していたペティナイフを取り出した。


「「「なっ!」」」

「料理人として、包丁の貸し借りは厳禁ですわよね」


 レイシアは、ハムの切り口を見てから最初は厚めに切った。切り口が気に入らなかったから。それから、薄くうすーく、かざすと向こうが見える薄さにハムをスライスしていった。


 (ここまで均一に薄くは俺でも切れない)料理担当に恐怖心が芽生えた。


 (切り口イマイチで厚く切った所は細かく切って具にしましょう)レイシアは、細切れにしたハムをフライパンで炒めた。塩コショウでしっかり味を付けて。


 炒めたハムを中の具として入れ込み米玉を握ってもらうと、片面に塩を振った薄切りのハムで包んだ。


「要はサンドイッチの応用ですわ。米をパンと思えば簡単でしょう」


 そう言うと皆で試食を始めた。薄く切ったハムが、新たな食感を生み出し、薄く振った塩が米の甘みを引き出した。そして、パンチの効いた塩コショウとハムの味わい。


「「「うまい!!!」」」


 新たな味の発見! それは人類の至宝! 開発室は感動と熱気に包まれていた。


が、

レイシアは不満だった。


「やっぱりハムだけでは単調だな。インパクトに欠けやがるか」


 急に料理人モードになったレイシアは、言葉遣いも乱雑になった。


「「「これ以上どんなインパクトを?」」」


 味にも、豹変にもインパクトを受けたスタッフは、何を求められたか分からない。


「ハムにハムでは芸がねーだろ。なっ、兄弟、なんかこう、心躍る具材はねーのか? オヤマーにはよ!」


 ここにオヤマーの沽券をかけた、開発室の本気モードが炸裂した。

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