祝福

 "聖詠か。なるほど、バッカスの奴の言う通りか。久しく聞かぬ聖詠を唱えし者よ、汝の名は"


「レイシア・ターナーでございます」


 "レイシア、そなたに祝福を与えよう。汝の願い我は受け取った。存分に学ぶが良い"


 その言葉が終わると、左右の石柱から黄色の光が真っ直ぐに立ち上った。レイシアが手を乗せていた水晶が熱を帯びてくる。

 思わずレイシアが手をどけると、そこから魔法陣が浮かび上がった。


「これは……」


 お祖父様が思わず声を上げると、左右の光は魔法陣に吸い込まれるように軌道を変えた。レイシアの頭上にある魔法陣は光を受け止め、レイシアに向けてさらさらと光の粒が降り注いだ。

 髪の毛に、ドレスに、当たっては消えていく光の粒たち。レイシアは魔法陣を見上げながら両手を広げ、もう一度聖詠を口ずさんだ。


 『知恵を求める者は 光を求めし者

  光を求める者よ 我が言葉に従え

  光を受け取れ 光を受け止めよ

  光を受け止めし者よ 祝福あれ』


 歌うような、語るような声は礼拝堂の壁に反射し、静かな木霊こだまが幾重にも重なりあい美しい響きとなった。

 魔法陣が光を受け止め切った瞬間、まばゆい光が魔法陣そのものを光らせやがて魔法陣が消えた。


「奇跡だ! 神よ……」


 ギルド長が膝を着き祈り始めた。

 レイシアはよく分かっていなかった。

 神父様はゆっくりと倒れこんだ。


 神聖な気配は、全て消え去った



 お祖父様はギルド長に命じた。


「今の儀式の件は、状況が確定するまで他言無用だ。儂が良いと言うまでは誰にも話さぬように。よいな」


 そして、レイシアにも言った。


「レイシア、今回の特許申請は普通ではない。しかし、素晴らしいものであった。お前も、今回あったことは誰にも話すでないぞ。いいな」


 レイシアはよく分からないまま「はい」と答えた。



 お祖父様は、パンパンと2回手を叩くと、


「神父様が倒れられた。誰か神父様を救護室へ」


 と、大声で言った。パタパタと神官らが入って来て神父を運び出した。

 お祖父様とギルド長は石上に乗っている、契約書と白紙だった紙を確認した。


「問題なく成功しています。ですが……」

「最低ランクか。あれだけの事が起こったというのに」


 「お祖父様。文字が。なぜ、白紙の紙に文字が現れたのでしょうか」


 レイシアが紙を覗き見ると、文字が書かれているのが見えた。確かに白紙だったのに。


「ああ、それも含めて説明はしよう。ただしここではできん。後でだ。ギルド長含めて儂の屋敷で話す。よいな、ギルド長よ」


「はい」


 そこへ、若い神官が駆け寄ってきた。


 「ギルド長、並びに領主様。こちらで何が起きたのでしょうか。お話を伺いたいので別室にお越しいただけますか?」


 お願いというより、命令に近い感じで神官は言った。


「なあに、儀式が終わって疲れたのであろう。このように契約も成就された。何も問題あるまい。なあ、ギルド長」

「はい、文字が浮かび上がりましたのでこの案件は成立致しました。神父様には後ほどお見舞いを致しましょう」

「そういう訳には」


 神官はなんとか連れて行こうとした。


「せめてお話だけでも」

「後にしてもらえるか? 孫がおびえていてな。 どうせ話すなら神父様を交えて話をしよう。明日でよいか? 今日は孫を返したいのでな」

「では、契約の話もございますので、私も付いて行ってよろしいでしょうか」


 ギルド長は領主の意向を汲んで付いて行けるように話を合わせた。


「そうか、では明日の午後1時に来よう。今日は孫のために帰ることにする。悪いがギルド長も付き合ってくれ。それでよいな」


 有無を言わせずお祖父様は、レイシアの手を取って歩いて行った。ギルド長は納得のいっていない神官に、いくつか言葉をかけてから二人に付いて行った。

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