ディナー

「待っていたわ、レイシア。さあ、席について」


 先に席に着いているのは、お祖父様とお祖母様。仲良く隣り合わせで座っている。レイシアはお祖父様の向かいに案内された。


「どうした?」

 お祖父様聞くと


「あの、お二人だけなのですか?」

 と、レイシアは聞いた。


「ああ、そろそろ代を譲ろうと思っていてな、ここの別邸に儂ら二人で移って来たんだ。息子共は本邸にいる。今度会わせてあげよう」


 実は、ターナー領に5億リーフ(1リーフ≒1円 ものにより物価の価値は違う)もの金を、無利子で貸す事を勝手に決めたため、その代償として、隠居する決断をしたのだが、それはターナー家には伝えていない。


「さあ、お祈りをしよう。ここオヤマーは商いの神ヘルメスを祀る教会と、酒の神バッカスを祀る教会がある。この地では、二人の神を拝むのが習わしだ」


 そう言うと、オヤマー領の祈りの言葉を教えた。


「豊かな実りを行き届けるヘルメス様。豊かな実りを芳醇に変えるバッカス様。お二人の恵みに感謝を。」


 レイシアは、(場所が変わるとお祈りの言葉も変わるんだね)と思いながら、そこにアクアへの祈りも混ぜて祈った。


「作物の実りを育む、水の女神アクア様。豊かな実りを行き届けるヘルメス様。豊かな実りを芳醇に変えるバッカス様。皆様の恵みに感謝を。」


「素晴らしい! ターナーは水の女神の教会なのだな。よろしい。今日からそう祈るように。まだ小さいのによくできた子だ」


「レイシアちゃん、凄いわ。よくできましたね。さあどうぞ召し上がれ。最初は手元のグラスからね」


 レイシアは手元のグラスを見た。白い濁った飲み物が入っていた。


「それは、甘酒と言う、米から出来た飲み物よ。アルコールは入っていないから、子供でも飲めるわ」


「さあ、乾杯しよう。飲んだ後感想を聞かせとくれ」


 三人は乾杯をした。レイシアはおそるおそる口を付けて、甘酒の味を確かめた。


「不思議な味。でも甘くて……おいしいかも」


 祖父母は率直な感想に対して好印象を持った。


「なれない味は難しく感じるだろうが、慣れてくるととてもおいしく感じられるものさ」


「はい。少しずつ慣れていきますね。この粒がお米ですか?」


「おお。お米を元に作ったこうじというものだ。なんだい、米に興味があるのかい?」


「はい。食べてみたいです。お酒を作っている所も見てみたいです。いろいろ勉強させて下さい」


「おお、そうか。儂に出来ることなら教えてやろう」

「まあ、あなたばっかり」


 お祖母様が、レイシアと話したくて割り込んできた。


「レイシアちゃん、それじゃまるで男の子みたいよ。女の子はね、綺麗なものを身に着けて、女の子同士の親交を深めるものよ。大丈夫。私が教えてあげますから」


 お祖母様は、良かれと思ってレイシアへアドバイスをした。


「男の子と女の子で、やることが違うのですか?」

「そうよ。当たり前じゃない。さあ、まずはおいしく頂きましょう」


 レイシアは、料理を食べながら思った。このスープ、温かかったらもっとおいしいのに。このお肉、焼きたてだったらもっとおいしいはずなのに。


「ん、どうしたレイシア」


 考えながら食べているレイシアを見て、お祖父様が尋ねた。


「いえ、なんでもないです」


「おや、そんなことはないだろう。怒らないから率直に言ってごらん。さっきの甘酒の感想のようにな」


「そうですか……。このお料理、出来たてではないようですね。なぜなのでしょうか」


「おや、家では出来たての料理を食べているのかい?」


「はい、我が家の料理人と私が丹精込めて作っていますので、温かいものは温かいうちに食べられるよう、メイドに指示しております」


「レイシア、今料理作っているって聞こえましたが……嘘でしょ」


 お祖母様が驚いて聞いてきた。


「おかしいですか? お料理得意なのですよ」

「そんなことをしてはいけません」


「えっ?」


 常識的に、貴族の子女が料理など出来るはずもないし、やるなんて恥ずかしいこと。お祖母様の言い分は貴族としては間違っていない。


「この子に料理をさせるなんて……。全くあの男は……」


 お祖母様は怒り心頭。察したお祖父様が止めに入った。


「まあまあ……、ところでレイシア。温かい料理はこちらでは出ないよ。毒見をするからね」

「毒見……ですか」


「そうだ。子爵といえどいつ誰から、命を狙われるとも限らないのだよ。さらにな、毒には即効性、すぐに効く毒と、遅効性、ゆっくりと後から効いてくる毒がある。だから毒見をし、料理が冷めるくらいの時間待つんだ。普段から慣れておかないと、いざというとき対処出来ないからな」


「そうなのですね」


 レイシアは、自分が好きな事を出来ない、女の子らしくするということと、食事が温かいものが提供出来ない料理人の無念さと、おいしいタイミングで食べられない事を知り、都会の貴族と言うものは大変だなと思った。

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