休憩時間

「やっぱり王都のお菓子は甘いわね」

 レイシアは、部屋で出されたお茶とお菓子を食べながらそうつぶやいた。


「ターナーで出されるお菓子は、果物を中心とするか、ハチミツを使ったお菓子が多いですから。砂糖はジャムを作るために使用するから甘さは控えめですよね」


 ターナー領でアリシアに付いていたノエルがそう言うと、ポエムも応えた。


「私もターナーで出されたお菓子は、素朴な感じで好きでしたわ。王都でも砂糖は貴重品なので、貴族の中では、砂糖をたくさん使った方が高級品と言うイメージが付いていますの」


「ふ~ん。そうなの。おいしい方がいいのにね。私ならもっとおいしく作るのに」


「レイシア様は、相変わらずお料理しているのですか?」


「もちろん。立派なお姉さまですから」


 レイシアの変わらない態度に二人は笑った。ノエルもポエムも、そんなレイシア様が大好きだった。



 休憩後、レイシアはクローゼットに案内された。見たこともない色とりどりのキレイなドレスが、部屋いっぱいに吊るされている。生活するのにこんなにドレスって必要? レイシアは不思議に思った。


「こちらの棚にあるのが、アリシア様がお召しになっていたドレスです」


 ノエルが指し示した棚に、20着ほどの子供用ドレスがあった。


「お母様が着ていたのですか?」


「ええ。アリシア様はそれはそれはかわいらしい方でした。今のレイシア様のように。初めての会食ですので、あまり派手にならない……、そうですね、髪の色と合わせた、この茶色のドレスなどいかがでしょうか」


 (このお洋服をお母様が着ていたのね。お母様にもこんなに小さい時があったんだ。お母様……)


 レイシアは、お母様を思い出し、少し切ない気持ちになった。ドレスをギュッと抱きしめたあと、「これにしますね」と言った。



「それでは、着替える前に入浴をいたしましょう。長旅で汚れていますからね」


 浴室に連れて行かれたレイシアは、ノエルとポエムに服を脱がされそうになった。お母様がいなくなってから、使用人の数が足りず、また、レイシア様にだからという謎の信頼感から、レイシアは身の回りのことを、誰にも頼らず、自分一人でやる習慣が身についていたのだ。


「お風呂も一人で大丈夫だわ」


「それはいけませんわ。レイシア様」

「そうです。私達の仕事がなくなってしまいますわ」


「それに、貴族の女性としての振る舞いとして失格です。立場にはそれぞれ役割というものがあるのですよ。貴族のお嬢様は、お世話される役割があるのです」

「そうです。お世話させて下さい」


 なんだか腑に落ちないレイシアだったが、二人ががりで言われたらしょうがない。身を任せることにした。


「そういえば、こっちには温泉は無いの?」


 体を洗われながら、昔お母様が言った事を思い出し、レイシアは尋ねた。


「はい。残念ですが私はターナーでしか温泉を見たことはありません」

「私もです。温泉素敵でしたね」


 けして冷たい訳でもない水を浴びながら、冬は大変だなと思うレイシアだった。



 服を着るときも。はじめは一人で着られますと頑張ったレイシアだったが、貴族のドレスなど一人で着られるようには出来ていない。

 レイシアの事をよく知っているノエルとポエムは、レイシア様が諦めるまでやらせようと静かに見守っていた。


 構造的に一人では着ることが出来ないと分かったレイシアは、(貴族の世界は無駄にできているのね)と覚り、その後から諦めてメイドたちの言うことを聞き、手を借りる事を嫌がらないようになった。

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