休憩時間
「やっぱり王都のお菓子は甘いわね」
レイシアは、部屋で出されたお茶とお菓子を食べながらそうつぶやいた。
「ターナーで出されるお菓子は、果物を中心とするか、ハチミツを使ったお菓子が多いですから。砂糖はジャムを作るために使用するから甘さは控えめですよね」
ターナー領でアリシアに付いていたノエルがそう言うと、ポエムも応えた。
「私もターナーで出されたお菓子は、素朴な感じで好きでしたわ。王都でも砂糖は貴重品なので、貴族の中では、砂糖をたくさん使った方が高級品と言うイメージが付いていますの」
「ふ~ん。そうなの。おいしい方がいいのにね。私ならもっとおいしく作るのに」
「レイシア様は、相変わらずお料理しているのですか?」
「もちろん。立派なお姉さまですから」
レイシアの変わらない態度に二人は笑った。ノエルもポエムも、そんなレイシア様が大好きだった。
◇
休憩後、レイシアはクローゼットに案内された。見たこともない色とりどりのキレイなドレスが、部屋いっぱいに吊るされている。生活するのにこんなにドレスって必要? レイシアは不思議に思った。
「こちらの棚にあるのが、アリシア様がお召しになっていたドレスです」
ノエルが指し示した棚に、20着ほどの子供用ドレスがあった。
「お母様が着ていたのですか?」
「ええ。アリシア様はそれはそれはかわいらしい方でした。今のレイシア様のように。初めての会食ですので、あまり派手にならない……、そうですね、髪の色と合わせた、この茶色のドレスなどいかがでしょうか」
(このお洋服をお母様が着ていたのね。お母様にもこんなに小さい時があったんだ。お母様……)
レイシアは、お母様を思い出し、少し切ない気持ちになった。ドレスをギュッと抱きしめたあと、「これにしますね」と言った。
◇
「それでは、着替える前に入浴をいたしましょう。長旅で汚れていますからね」
浴室に連れて行かれたレイシアは、ノエルとポエムに服を脱がされそうになった。お母様がいなくなってから、使用人の数が足りず、また、レイシア様にだからという謎の信頼感から、レイシアは身の回りのことを、誰にも頼らず、自分一人でやる習慣が身についていたのだ。
「お風呂も一人で大丈夫だわ」
「それはいけませんわ。レイシア様」
「そうです。私達の仕事がなくなってしまいますわ」
「それに、貴族の女性としての振る舞いとして失格です。立場にはそれぞれ役割というものがあるのですよ。貴族のお嬢様は、お世話される役割があるのです」
「そうです。お世話させて下さい」
なんだか腑に落ちないレイシアだったが、二人ががりで言われたらしょうがない。身を任せることにした。
「そういえば、こっちには温泉は無いの?」
体を洗われながら、昔お母様が言った事を思い出し、レイシアは尋ねた。
「はい。残念ですが私はターナーでしか温泉を見たことはありません」
「私もです。温泉素敵でしたね」
けして冷たい訳でもない水を浴びながら、冬は大変だなと思うレイシアだった。
◇
服を着るときも。はじめは一人で着られますと頑張ったレイシアだったが、貴族のドレスなど一人で着られるようには出来ていない。
レイシアの事をよく知っているノエルとポエムは、レイシア様が諦めるまでやらせようと静かに見守っていた。
構造的に一人では着ることが出来ないと分かったレイシアは、(貴族の世界は無駄にできているのね)と覚り、その後から諦めてメイドたちの言うことを聞き、手を借りる事を嫌がらないようになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます