第四章 オヤマー領 レイシア11歳 弟6歳

初めてのオヤマー領

 アマリーとフージに泊まって、やっとオヤマーに着いた。初めて見る景色。初めて寄った賑やかな王都。宿場町、工業地、王都。どの町も個性があり、賑わっていた。

 

 馬車の移動は無理が出来ない。馬が疲れたら休み休み。なので、どこで止まってもレイシアは外に出させてもらって、いろんな人にいろんな質問をしていた。町の様子。仕事の事。売っているものについて。


 人々は、貴族としては貧相……いや、かなり質素な服を着た女の子が、その子より立派な格式の高い服を着た従者を従えているのを見て、どこかの偉い貴族の子供が、お忍びで来ていると勘違いし、丁寧に答えてくれた。


 旅の中で、レイシアの知識と体験は、レイシア自身をまた一つ成長させた。


◇◇◇


 オヤマー領に入ると、不思議な匂いが辺り一面充満していた。


「この匂いは?」


 レイシアが聞くと、ノエルが答えた。


「この匂いは、お米を精米したぬかの匂いです。オヤマー領は米の酒造りで有名ですが、今はお米そのものを美味しく食べる研究が進み、オヤマーでは安くておいしくて柔らかいお米が、庶民の間で広まり始めているのですよ。」


「食べてみたい」


 レイシアは料理人として、また、何かが大きく変わる予感がして、お米の味を知って見たかった。


「滞在中にいくらでも召し上がれますわ」


 レイシアは、深呼吸して糠の香りを確かめた。変な匂い。これが美味しくなるの?


「食べてからのお楽しみですよ。レイシア様」


 馬車は賑わう町並みをゆっくりと進んで行った。



 ターナー家より豪華な門をくぐると、大玄関が開く。大階段の前で執事以外使用人が列を作る。階段の前には、優しく微笑んだお祖父様とお祖母様。


「お久しぶりです。お祖父様お祖母様。これからお世話になります」


 スカートに手をやり、カーテシーをしたレイシア。メイド仕込みの姿勢のよさが際立つ。お祖父様がうんうんと頷くと、お祖母様は微笑んで言った。


「よく来たわね、レイシアちゃん。待っていたわ。ようこそ我が家へ」


 お祖母様が優しく声をかける。


「あら、荷物はそれだけ? どうしましょう。とりあえず着替えましょうか。確かアリシアが小さい頃着ていた服があったわよね。無いなら本宅から取ってきてちょうだい。その後にお茶を一緒にお茶を飲みましょう」


 レイシアの着ている服は、レイシアにとっては一張羅だが、お祖母様から見たら満足出来る物ではなかった。孫は男2人。女の子を着飾らせたい欲求がムラムラと湧いて出てくる。


「そうね。2ヶ月いるのだから、明日服を買いに行って、何着かオーダーメイドで作りましょう。来年のためにも……」


「おいおい、そんな興奮しないでおけ。レイシアも長旅で疲れているだろう。お茶でなく夕食まで休ませてあげたらどうだい。」


「そうですわね。馬車は疲れますものね。分かりました。レイシア、夕食までゆっくりしていなさい。ノエル、ポエム、レイシアをよろしく頼みますよ」


 顔合わせは終わり、レイシアは客間に案内された。

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