転職

 神父様とサチ、そしてレイシアは食堂で、お父様と執事とメイド長と料理長と向い合せになって話をした。聞いていくうちターナー家一同は顔が青くなっていった。


「そんなことになっていたとは……」


 クリフトは、娘が好きにやっているとばかり思っていた。いや、間違いではないのだが。


「嬢ちゃんには才能がある。どこまでも伸ばしてやろうと思ったが……やりすぎたか」


「ええ、お嬢様には天賦の才能がございます。メイド歩行術最終奥義まではもうすぐ……」


「だからあんたら、料理人がペティナイフで狩りとか、メイド歩行術最終奥義とか何なんだよ!」


「メイドの嗜みですわ」


「地産地消? 予算が少なくてな。畑もしてるぜ」


「レイ! まさか!」


「あっ! 言うの忘れてた。素敵ですよ、畑」


「あんたねぇ」


 あれだけじゃなかったのか。絶対まだ隠している。そう思い頭を抱えるサチ。


 話を聞いていた執事が、脱線しそうな流れを断ち切ろうと話し始めた。


「つまり、旦那様、メイド長、料理長、皆様にとってレイシア様は、ターナー家にいつまでもいて、仕事の補助または次世代へ引き継ぐ後継者としてお考えなのでしょうか?」


 考え込む3人。


「レイシア様は、今年誕生日が来れば12歳。再来年には学園に通われます。その後、ご結婚なされたら他領に行かれるお方です。あの災害以来、使用人の数も激減して、皆様は大変な苦労をなさっていますが、レイシア様に頼り切ると言うのはいかがなものでしょうか」


「確かにそうだな。このターナーの後継者はレイシアでなくクリシュだ。レイシアにはレイシアの将来を考えてやらなくてはな」


「そうだな。嬢ちゃんには大抵の事は教えた。いつでも店を出せるくらいには仕込んだ。もう修行は完了。免許皆伝だな」


「私は……そうですね。最終奥義は、今の時代必要ない代物でしょう。ここまでよく頑張りました。基礎訓練だけは欠かさず行って下さいね」


 いきなり仕事を取り上げられたレイシア。いい話っぽいがハシゴを外されては納得出来ない。


「待ってください! 私は楽しくやっていたんです。修行! 修行を続けさせてください!」


 やることがなくなる恐怖。それがワーカホリック。神父が割って入る。


「いいですか。ワーカホリックとは仕事中毒。今まで忙しかったのに、急に仕事が無くなるとそれはそれで体に悪いのです。徐々に仕事を減らして、休みを取らせ、体を休みに慣らして行かないと反動が大きくなります。……とはいっても、皆さん当事者ですし、調整役……管理できる人がいればいいのですが……」


「調整役? どういう事だ?」


「レイシア様の行動を管理できる者が必要です。高圧的でなく、信頼が置かれ、同年代あるいは少々年上の女性。レイシア様が言うことを聞いて、一緒に遊べる。そんな人がいれば……いた!」


「へっ? あたし?」


「クリフト様! こちらのサチはレイシア様から姉と慕われ、孤児院でも謎のカリスマを発揮し姉御と呼ばれ、[素敵なお姉様計画]を発案する頭脳、実行力を兼ね備えた逸材。レイシア様の治療にぜひお雇い下さい」


 いきなり就職斡旋されるサチ。了承する領主。


「ま、まま、待ちなよ神父様! こっちにも都合が……ああ、もう、分かったよ。2週間! 2週間待って。職場の引き継ぎ終わったらやってやるよ。レイのためだ」


 こうして、サチはターナー家でレイシア付きメイド見習いとして働く事になった。

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