40話 ワーカホリック

「レイ! あんたそれ、絶対おかしいから!」


 レイシアの一週間のタイムスケジュールを聞いたサチ(16歳)は、温泉に浸かりながら盛大にツッコミを入れた。


 今日はサチの仕事の休みの日。レイシアはクリシュを孤児院に届けると、珍しく勉強を休み、サチと一緒に温泉に入りにきたのだ。


「何、メイドの歩き方の特訓って! 毎日するものなの? 暗闇の歩行訓練って何」


「それは……我が家の秘密」


「なにそれ! じゃあ、食材収集って何!」


「えっ? 山菜とか木の実とか、キノコやタケノコ、外に行けば取り放題ですよね」


「もしかして狩りって……」


「食材収集の動物版です! 素敵ですよね。お肉がただで手に入るのですから。ペティナイフ飛ばして獲物を狩るのは料理人の基礎スキルですよね」


「冒険者だから! それ冒険者の仕事だから!!! ペティナイフでケモノ取れないから! 料理人って何者⁉」


「えっ? 私冒険者登録なんてしていませんよ。単なる料理人です」


「そこから! あんたは料理人じゃなくてお嬢様! もてなす方じゃなくて、もてなされる側! 全部間違ってるわ」


「そうかな〜」


「大体、あたしと作った[すてきなお姉様計画]は完了したはずよね。レイ、あんた一体何になる気なの!」


「素敵なお母様」


「無理だから! お母様は無理!」


「やってみないと……」


「いい! やらなくていいから! それにお母様は狩りなんてしないから! ……これは神父様に相談ね。レイ、とっとと上がるわよ」


「え〜、ゆっくりしたいのに」


「普段の方をゆっくりするの! さっ、行くわよ」


 ザブン、と思いっきり水しぶきを上げながら、サチは脱衣所へ

向かった。レイシアも仕方なく、貴族用の脱衣所へ歩いていった。



「ってなわけなのよ。レイは働きすぎなの! 神父様気付いてなかったの?」


 レイシアを連れて、孤児院に詰めかけたサチは、神父様に向かって言いたい放題。


「今の話、本当なのかい?」


「はい。大体そんな感じですね。私としては特許の取れる商品開発もしたいんだけど、具体的なアイデアが出なくて……」


 神父はレイシアの表情を見定めてから、こう言った。


「ワーカホリックだね。レイシア。病気の一種だよ」


「「ワーカホリック?」」


「働いていないと落ち着かない病気さ。働きすぎて疲れて倒れる。君には休みが必要だよ」


 レイシアは、そう言われてもよく分かっていない。働く事は美徳じゃないの?と思っていたから。


「何事にもね、限度というものがあるんだよ。レイシア、今クリフト様は何をしていますか?」


「お父様ですか? 家で書類仕事していると思いますが」


 神父は、サラサラと手紙をしたためるとサチに手渡した。


「これをレイシアの家へ持って行って下さい。食事が終わったら領主へ面会に行きます。サチ、久しぶりに孤児院で食事しますか?」


「そうだね。それもいいか。じゃ、ひとっ走り行ってくるよ」


 とびきりの笑顔で答えながら、サチは走っていった。

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