レイシアは特許で稼ぐ夢を見る
「どうしてお祖父様のオヤマー領はお金があって、ターナー領は貧乏なのか分かりますか?」
別の日、神父様はレイシアに質問という形の命題を与えた。
「ターナー領は農村地帯。第一次産業。オヤマー領は酒造りなので加工業。第二次産業だからですか?」
「さすがですね。その若さでよく勉強しています」
「それなら、農産物を活かした加工業を併設、流通まで押さえれば第六次産業が完成ですね!」
「流通は、現実的ではありませんね。それに、単なる加工だけでは正解はあげられません」
「だめですか?」
「だめとは言いませんが……。オヤマー領の特色を理解出来ていませんね」
「特色ですか?」
「では、明日まで調べてみて下さい。参考になるのは、この本と、この本。あと、これも読んでみなさい」
レイシアは3冊の本を何度も読み比べた。
◇
「先生! 特許! 特許について教えて下さい」
レイシアは昨日から興奮が冷めやらない。『特許』これが困窮しているターナー領を救う鍵になるかもしれないと思いついた。
「おや、よくそこまでたどり着きましたね。加工品の独自性や他にはない魅力、セールスポイントまで分かればいいと思っていたのですが」
「それはまとめてあります。ターナー領で言えばサクランボのジャム。あれは他領では作ってません。独自性のある商品ですね。あれの売り込み方の改善で価値を上げる事ができそうですね。…………それで特許です! 早く教えて下さい」
「そうですね。特許とは、発見・発明を自分の権利にすることです。考え方として2つ。1つは、自分の権利を人に使わせにくくすることです」
「どういうことですか?」
「ニセモノの防止と、独占と言うことですね。オヤマー領では、従来のブドウの酒造りの他に、それまで見向きもされなかった家畜用の餌『
「すごいですね」
「そのおかげで、今ターナー領はお金を借りていられるのです」
「本当ですね。すごい!」
「まあ、そこまでの成果ある特許はなかなかないのですが。もし、レイシアが目指すなら、もう一つの考え方の方が現実的でしょう。普及と不労所得ですね」
「独占と違うのですか」
「正反対ですね。使ってもらって、お金を頂くのです」
「分かりません」
「例えば……そうですね。あなたの好きなファンタジー小説に、アイスクリームと言う食べ物が出てきますね」
「はい」
「あれが現実にあったら作りたいと思いませんか?」
「作りたいです。食べてみたいです」
「誰かが特許を取っていて、もしお金、そうですね、金貨1枚10万リーフを出したらレシピを教えて貰い、いつでも作っても良くなるとしたらどうします?」
「買います! お金払います! 作ります。でも、金貨かぁ。」
「それです。作りたい人が作るための権利を得るためにお金を払う。何百人と権利を買えば、それだけでかなりの収益になるでしょう。レイシア様がアイスクリームの特許を持っていたら、それだけで金貨が次々と入ってくるのです。それが1つ」
「金貨が次々と! すごい!」
「それだけではありません。それより大切なのが不労所得です。例えば一人で商売を始めたとしましょう。自分一人で作って売れるのが仮に20個だとします。計算しやすいように小銀貨1枚、1000リーフですね。その金額で売っても、1日小銀貨20枚。材料費や経費を引くと半分残るくらいでしょうか。小銀貨10枚で1万リーフが手に入ります。ひと月、28日のうち20日働いたとすれば小銀貨200枚。金貨でしたら2枚ですね。20万リーフが手に入ります。ここまでは分かりますか」
「はい」
「でも、特許で作る権利を売れば、アイスクリームで商売をしてお金を儲けた人は、権利の使用料として、レイシアに売上げの10%を支払わなければいけません。仮に小銀貨1枚の商品を100人の人が20個づつ売れば、売り上げは小銀貨で2000枚。1ヶ月20日働いたとして40000枚の売り上げです。その中から1割、小銀貨4000枚金貨でしたら金貨4枚が特許として入ってきます」
「金貨4枚⁈」
「単純計算です。計算しやすいように分かりやすく言っています。このお金はレイシア様が働かなくても入ってきます。もっと沢山の人が売れば売るほど、レイシアが特許を持っていれば、黙っていてもお金が入って来るのです。単純計算ですし、もう少し複雑ですけどね。そうなると価格は下がって来るとは思いますし……。しかし、自分一人で売るよりも皆で作ればより多くの利益を得る事が出来ます。すごいと思いませんか?」
「すごいです。特許! すごすぎです」
「まあ、そこまでのものはなかなか作れませんし、キャンブルみたいな側面もあるので、普段からそればかり考えてはいけませんよ。ひらめいた時、思い出して下さい」
「特許すごすぎ」
「頭冷やして! では今日はこの本を読んで現実を見て下さい」
神父は、『失敗に学ぶ経営理論』という本をレイシアに渡した。
その日、レイシアは、特許で大儲けする夢を見たのだった。
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