投資

 クリシュの洗礼は、レイシアの時とは違い、滞りなく終わった。そのまま孤児院に行き、クリシュも字を習う事になった。

 今では孤児院で勉強を教えるのは、大きくなった孤児たち自身。神父様はたまに見に来るだけですむようになった。

 レイシアは、クリシュの様子を少しだけ見た後、図書室に向かった。



「どうすれば、借金が減らせるのか教えて下さい」


 レイシアは神父様に、どストレートに聞いてみた。


「では、経済を学びましょうか。今すぐ君が出来ることはありませんが、数年後必ず役に立ちます。お金を返すために、焦らずに今は力と知識を蓄えましょう」


 そう言って、講義を始めた。


「レイシア、君は本で知識はかなりインプットされています。しかし、現実の問題と照らし合わせて考えられなければ、あまり意味をなさないでしょう。だから、これからの質問に答えながら考えていって下さい。そうすることで対応力が付くことでしょう」

「はい」


「まずは、投資。去年の大雨で沢山の果物の木が倒れました。しかし税金を払った農家はお金が無くなりました。少しだけ借金もあります。その時、御見舞金が少しだけ来ました。この時、農家は何をするのがいいでしょうか?」

「借金を返すことです」


「そうですね。それも間違いではないですが、私なら、もっとお金を借りて樹を植えます」

「借金は良くないのではないのですか?」


「お金を借りるのには二種類あります。今を凌ぐためと、未来を良くするため。借金を返せば、今は良くなります。でも、10年後は少なくなった収入で生活しなければなりません。お金が無くなり借金をしているかもしれません」

「収入が減る。そうですね」


「でも、今は借金が増えるかも知れませんが、果樹の木が据えれば、収穫が上がり生活も楽になります。上がった収入で借金を返し終わった後は豊かな生活に戻れます。それが経済の考え方です。この場合は『投資』ですね」

「経済すごい」


「良い投資は豊かさを生み出します。悪い投資は破滅をもたらします。ですから、お金を返すことだけに囚われてはいけません。お金を稼ぐ事を考えましょう。眼の前でない、未来を見据えるのです」

「はい!」


「では、そういった視点でこの本を読むように」


 神父はそう言って本を手渡すと部屋を出ていった。


 レイシアは本を読んだ。以前読んだことがある。でも、一度読んだことがある本が、こんなにも違う、こんなにも深いことが書いてあったんだと、本を読み返しながら感動した。レイシアの本の読み方がここから変わった。

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