想いは風にとける レイシア10歳

 〈前回、読み飛ばした人への状況説明〉


 梅雨の大雨で土砂崩れがおきる。

 農地が荒れ、魔物が暴れ、街道が崩れ、ターナー領が借金まみれ。

 教会本部と大喧嘩、寄付金ネコババされる

 お母様が実家に金策に行く。


 お母様、蜘蛛に噛まれて亡くなる。


 借金を抱えて、農地が荒れたターナー領のこれからは←いまここ


では、物語再開です



◇◇◇




〈レイシア視点〉


 もうすぐ、クリシュ5歳の大切な誕生日。

 洗礼を受ける大切な誕生日。


 それでも、去年のようには豪華に出来ない。


 お母様が亡くなってからは、使用人の数も減った。メイドのノエル、ポエムはじめ、お母様付きの祖父母が送ってきた使用人は、全てオヤマー領に引き上げたんだ。

 実家が心配で辞めた人もいたよ。これを機に結婚するから、と辞めた人もいた。


 みんな、分かっていたんだ。これ以上、お給金で迷惑はかけられないと……


 お母様はもういない。人も減った。お金もない。


 ……それでも、クリシュは5歳になる。


 お祝いは丁寧にやろう。

 豪華でなくていい。

 心を込めて。

 できることを精一杯。


 無いことを嘆く前に、やれることをやるんだ。


 ないなら作ればいい。

 ないならやればいい。


 何もなくても、お祝いはできる。


 飾り付けはできる。メイドのみんなと協力して。


 料理も作れる。師匠とシムと協力して。


 楽団も呼べない? 私が歌うよ。みんなで歌おう。


 プレゼントも作ればいい。絵本を作ろう。あれだけ本を読んできたんだ。


 お母様がいないなら、私がお母様の分まで愛せばいい。


 お母様が実家に帰っていたあの時期は、これからの練習だったんだ。あの時はお父様と二人。今はクリシュがいる。そうよ、平気。


 だからクリシュ。あなたは大丈夫。まっすぐ育ってね。


 お誕生日、おめでとう、クリシュ。クリシュのためなら、お姉さま何だって頑張るよ。




◇三人称◇



「「お誕生日おめでとう、クリシュ」」


 レイシアとクリフトがお祝いの言葉をかけると、使用人のみんなが紙吹雪を撒いた。二階の窓や木の上からも。

 大量の紙吹雪。紙はそれでも田舎ではまだまだ手に入りにくい。でもこれだけの紙は神父様が用意してくれた。捨てなくちゃいけない、沢山の薄い本を細かく切ったものだ。


 お母様の想いが、風と共に舞い散る。心残りを浄化するように。過去の辛い思い出や出来事も、細かく千切って撒いてしまえば美しい情景に変わる。古い言葉も内容も、新たな意味に塗り替えられる。


 神父はレイシアに紙を渡すときにこう言った。


「誕生日に、この紙を撒きなさい。アリシア様が、君のお母様が(この本を)残していくことを心配していたんだ。これを撒いてしまえば、何も心残りはなくなる。安心して神の国から君たちを見守ることが出来るだろう」


「お母様が(私たちを)残していくことを心配してくれていたのですね。これを(クリシュのための祝福として)撒けばお母様の心残りはなくなるのですね。分かりました。お母様、安心して私たちを見守って下さい」


 お母様の紙吹雪が舞い散る中、クリシュは笑顔で「ありがとうございます。お父様、お姉様、そして、神の国のお母様」とお礼を言った。


 思い残す事はもうない。これからは家族三人、前を向いて歩もう。


 誕生日は、みんなの愛に包まれて、穏やかな空気で進行していった。

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