閑話 教会改革 神父視点②
孤児院に初めて入った。
〈この目には覚えがある〉
そうだ、学園で先生に出逢う前の私。
クリフト様に出逢う前の、教会で希望を失ってた私。
なんだ、私は孤児と同じだったのか。
◇
やるべき事が分かった。この子供達に生きる希望を与えよう。私にとっての、シャルドネ先生やクリフト様のような存在に、私はなろう。
◇ ◇ ◇
教会の改革も一段落ついた頃、クリフト様は私に、次は何をしたいか聞かれた。
必要な事はまだまだ多い、少し考えていると不意に、初めて出逢った時のシャルドネ先生の言葉が聞こえてきた。
『衣食住足りても、知識とマナーがなければケダモノと変わらないよ。バリュー、あたしのゼミにおいで。人生の楽しみってヤツを味わわせてやるよ』
そうだ、私はこれを子供達に伝えたい。人生の楽しみを。
「孤児達に読み書きを教えたいです。本が読めるように。マナーも教えたいです。町の人から嫌な目で見られないように。少しでも良い仕事にありつけるように。…………できたら、平民の子供達にも一緒に教えたいんですけどね」
クリフト様は真面目に聞いてくれた。そして、
「まるで学園みたいだな」
と、言った。
つながった。ターナー様の一言で、私の、卒業前の夢も、今やるべき事も、自分で
全て同じじゃないか。気持ちがあふれる、感情がコントロールできない。でもこの思いは言葉にしなければ………冷静に伝えたよう、クリフト様に。
「そうですね。私はシャルドネ先生のような教師に成りたかったのです」
クリフト様はじっと私を見て黙っている。おかしな事言っただろうか? 私には過ぎた夢なのか?不安になったその時、
「予算はぶん取ってやる。やれるだけやってみろ」
………気が付いたらクリフト様に抱きついていた。あわてて離れた。落ち着け。顔が火照る。心臓が………大きく息を吸って、吐いた。
私は冷静を装い、膝を着いて、抱きついた謝罪と、感謝と、忠誠を告げた。
◇
貴族の子供は学園の入学(13歳)に合わせて、早い子でも10歳位から初めて読み書きを習い始める。でも孤児院では4歳前後から読み書きを教えている。
10歳で卒院しなければならないのと、6〜7歳にもなれば外で日銭を稼いだり、院内の仕事ができるから読み書きを覚えるのは早めに終わらせたい。
そして基本的な事は一年かからずに憶えてしまう。学問は早いうちから始めた方がいい。
クリフト様のお嬢様が5歳になった。洗礼式の前に打ち合わせに来たクリフト様に提案した。
「洗礼の後から、レイシア様に孤児院で勉強させませんか」
「早くないか?」と言われたが、そんなことはない。
「私は、そこらの家庭教師より的確に、そして深い知識と教養を伝える事ができると自負しています」
私の有能性は分かってもらえてるはず。
「もし10歳になってから私に預けますと、レイシア様は4歳の子供達と同じ環境で勉強することになります。周りには読み書きも仕事もできる6歳からの子供達に囲まれて。プライド保てますかね」
クリフト様に迷いが見えた。
「勉強は一人では中々身に付かないものです。家庭教師次第では嫌いになってしまうことも多々あります。今でしたら、同じ様な年齢の子供達と一緒に遊び、一緒に学び、切磋琢磨しながら成長できます」
何かもうひと押し。
「それに奥様身重なのでしょう。何かと環境が変わる時はよい機会です。奥様の負担軽減にもなります」
反応している? 奥様でもうひと押しか?
「とりあえず、洗礼後2時まで私に預けみて下さい。だめなら止めればいいのです。その間奥様とデートでもしていたら如何でしょうか」
落ちた。デートで落とせた。落とした私が言うのも何だが、それでいいのか? クリフト様。
こうして私は、クリフト様の大切なご令嬢レイシア様に、学問の素晴らしさを伝える機会を得ることができた。
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